「掛布雅之」選出でも、「江川卓」はなぜ野球殿堂に入れない? “野球ムラ”から嫌われた半生を、「空白の一日」を取材したベテラン記者が読み解く

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 1月16日、2025年の野球殿堂の開票結果が発表された。イチローがプレーヤー表彰で満票を逃したのが話題になったが、エキスパート表彰で殿堂入りを果たしたのが、元阪神の掛布雅之である。そこで頭をよぎったのが、現役時代のライバル、元巨人の江川卓のこと。彼は現在、候補者にすら入っていないが、今後、殿堂入りを果たす日は来るのか。
【吉見健明/スポーツジャーナリスト】

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 野球殿堂とは、主にプロ野球の元選手、元監督、元コーチらが選ばれる競技者表彰と、アマチュア野球関係者や審判などが選ばれる特別表彰とに分かれる。

 競技者表彰は、さらにプレーヤー表彰(引退後5年~20年の選手が対象)と、エキスパート表彰(監督やコーチを退任して6カ月以上、あるいは現役を引退して21年目以降の選手が対象)とに分かれる。

 今回、掛布が選ばれたのはエキスパート表彰だ。掛布の選手時代の実績は、349本塁打、1019打点。本塁打王3回、打点王1回を獲得した強打者で、ミスタータイガースと呼ぶに相応しい実績である。指導者としては、阪神の2軍監督を2年間務めた経験を持つ。

 一方の江川は、通算135勝、1366奪三振。最多勝2回、最優秀防御率1回、最多奪三振3回。1981年には20勝を挙げるなど日本一に大きく貢献し、MVPに輝いている。指導者経験はない。

わずか1票

 野球殿堂に入るには、引退後5年が経過する必要がある。江川は1987年オフに引退したため、1993年に初めてその資格を得た。殿堂入りするためには、有資格者から選ばれた30名以内の「候補者」の中に入り、さらにその中で75%以上の票を獲得しなければならない。その年、資格取得1年目の江川は見事候補者リスト入り。が、投票で入ったのは「1票」だった。この珍現象は話題となり、報知新聞は「たかが1票 されど1票」と1面で取り上げた。江川は、翌年は4票、翌々年も2票に終わり、以後は候補者に入れず、当時の規定により11年後に資格を失った。この間、殿堂入りを果たした選手は、村山実、稲尾和久、王貞治、福本豊など、江川より上の世代で、球史に残る大選手ばかり。江川が殿堂入りを果たせていないのは、32歳と現役引退が早かったため、資格を保持していた時期が、年上の、しかも大選手とばかり重なってしまったという不幸があるかもしれない。

 その後、2008年、エキスパート表彰が創設され、引退後21年以上経った選手にも殿堂入りへの道が広く開かれた。同年から江川はこちらの資格者である。こちらも有資格者から25名以内の候補者が選ばれ、やはり75%以上の票を得れば殿堂に入ることができる。が、江川は一度も候補者に入っていない。選手生活から時が経ち、また、その後も指導者としてユニホームを着ていないため、野球人としての印象が薄れたという側面は否めないだろう。

 こう考えると、今後の江川の殿堂入りは、これから指導者としてユニホームに袖を通し、人々のイメージを更新しない限り、難しいのかもしれない。これからエキスパート部門にも、江川より活躍が記憶に新しい、大物候補者たちが次々と入ってくるからだ。

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