日本人だけが知らないトランプ大統領「WHO脱退」表明の真相…「コロナの起源」を巡る“米世論の不信感”が後押ししていた
「自然発生説」と「研究所流出説」
世界を揺るがす決定を次々と繰り出すドナルド・トランプ氏の大統領令の中でも、とりわけ注目を集めているのは「世界保健機関(WHO)からの脱退」だ。脱退表明からわずか5日後に「再加入を検討するかもしれない」と拠出金の減額要求にスウィッチしたようだが、ファイティングポーズは崩していない。ただ、多くの日本人が首を傾げたであろう、この大統領令についてトランプ氏の独善なのだと通り一遍に片付けるべきではない。「コロナの起源」をめぐってWHOや科学者たちに不信感を募らせた米世論に後押しされている面があると考えられるからだ。【広野真嗣/ノンフィクション作家】
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コロナの起源をめぐる考え方は2つある。1つはウイルスが動物から人間へと自然に感染が広がったと見る「自然発生説」。もう1つは、武漢ウイルス研究所からウイルスが流出したと考える「研究所流出説」だ。後者には、そもそもウイルスは人為的に設計されたのではないかという疑念が含まれている。
2020年にコロナ禍が始まった当初、アメリカの科学界は研究所流出説を人種差別的な陰謀論と一蹴していた。20年3月、医学雑誌「ランセット」で27人の著名な学者が「陰謀論を強く非難する」という声明を発表した。
米政府のコロナ対策に助言していた白髪で痩身の免疫学者、アンソニー・ファウチ氏(当時・国立アレルギー・感染症研究所長)も自然発生説に立った。ニューヨークタイムズやCNNといった左派リベラル派のメディアも続いた。
これに対し、「証拠を見た」と研究所流出説の側に立ったのがトランプだった。左派メディアは「コロナの失政から目を逸らす」という不純な動機ありきで受け止めたが、トランプ支持者は中国批判に目を釣り上げる。ホットイシューでありつづけたのである。
中国から誠実な協力が得られないなかで「科学的にこちらが正しい」と結論づけることができないのは確かだが、明らかに潮目が変わったのは2021年春のことだ。
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