なぜ「フジテレビ」は“キャンセル”されたのか…複雑化する社会に広がる「善悪二元論」と「自己正当化の物語」

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「合理的な個人は選挙に行かない」

 わたしたちは学校で習った民主教育で、選挙に行かなくてはならないと教えられてきました。しかし、大きな選挙では候補者がたくさんいて、誰に投票をすればいいのかわからない。「一人ひとりの候補者の政策や過去の言動をじっくり分析し、もっともふさわしいと思う者を選べばいい」というかもしれませんが、私を含めほとんどのひとにはそんな時間はありません。現代社会はますます忙しくなり、仕事や勉強、デートや家族のイベント、あるいは趣味など、やるべきこと、やりたいことがたくさんあり、政治の話に割り当てる時間資源はほとんどありません。そもそも国政選挙や首長選では1票の価値はほぼゼロですから、経済学では「合理的な個人は選挙に行かない」と考えます。

 しかしそれでも、有権者の半分以上は選挙のたびにわざわざ投票所まで行っています。アメリカの政治学者イリヤ・ソミンはこの「不合理」な行動について、有権者は候補者についてなにも知らないまま「義務的」に投票しているか、さもなければスポーツファンのように選挙を楽しむか、あるいは自らのアイデンティティの証明として「部族的・党派的」に投票しているかのどれかだと述べています。昨年の兵庫県知事選は典型で、斎藤氏に投票した有権者の心理は、野球のファンやサッカーのサポーターに近いでしょう。

 県知事の「違法行為」を告発した兵庫県庁の幹部が自殺したことで、テレビや週刊誌、スポーツ紙、のちには全国紙も斎藤氏を“悪”とする報道を繰り広げました。パワハラなどの疑惑がありながら、なかなか職を辞そうとしない県知事は、ワイドショーからすれば、安心して叩けて視聴率も稼げるおいしい「ネタ」だったのです。

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 なぜ、フジテレビは“キャンセル”されたのか。実はそこに兵庫県知事の問題と共通する、ある「現象」が起きている。

 有料版「社長辞任で崩壊する『フジテレビ』、収まらない『斎藤元彦兵庫県知事』の疑惑…過去最大級の“キャンセル現象”がもたらす残酷すぎる『真のポストモダン』」では「善悪」が激しく入れ替わりながら展開する、フジテレビや兵庫県政の一連の問題の背景に橘玲氏が鋭く迫る。

橘 玲
1959年生まれ。作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が三十万部超のベストセラーに。『永遠の旅行者』は第19回山本周五郎賞候補となり、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞を受賞。最新刊は『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの? ――人生という「リアルなゲーム」の攻略法』

デイリー新潮編集部

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