フジテレビはなぜ“閉鎖的”記者会見を開いてしまったのか 元プロデューサーが指摘する、“内輪ノリ”企業風土の歴史
フジテレビを巡っては、スポンサーが次々と離れ、その状況は混迷を極めている。その混迷を深めるきっかけとなった閉鎖的な社長記者会見について港社長は、23日の社員説明会で「失敗だった」と述べた。オープンな記者会見であればこんなに大きな問題にはなっていなかったことを社長自ら認めた格好である。
【吉野嘉高/筑紫女学園大学文学部教授、元フジテレビプロデューサー】
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しかし、質問への回答を避けて逃げ回ることは、そんなにおかしなことだろうか? 私はフジテレビがこのような会見を仕組んだわけを理解できるような気がしている。
生配信はNG、静止画のみで報じたのに加え、口を開けば、「回答を控える」「調査委員会の調査に委ねる」の繰り返しが多かった。事情を鑑みてプライバシーに配慮すべきではあるが、情報開示に極めて後ろ向きの姿勢は明らかである。
自民党の対応と同じ
しかし、例えば自民党の派閥の裏金疑惑についての国会議員の説明はどうだったろうか? 自民党の議員たちは「お答えを差し控える」「今捜査中だからコメントできない」といった決まり文句で逃げていた。港社長の回答と同じではないか。
もちろん、これは誠実な対応ではない。疑惑の議員たちは説明責任を果たしていないため政治不信も深刻化する。
ところが、自民党は選挙で勝ち続けている。疑惑にノーコメントであっても、政権を失うことはない。選挙で勝てば、禊ぎが終わって一段落という雰囲気も漂い始める。
政治家だけではない。森友、加計、桜を見る会などに纏わる官僚の答弁も港社長のコメントと似たようなものだが、答弁に消極的だから懲戒処分が下ったという話を聞いたことがない。それどころか、なかには出世した人もいる。つまり官僚の世界においても、国民への説明責任を十分に果たさないことはさほど問題にならないのである。
政治家、官僚とフジテレビの幹部とは社会的にそれほど離れた立場にいない。「回答を控える」場面を何度も目の当たりにすれば、社長会見でも、質問されれば決まり文句を繰り返してはねつけていれば乗り切れると考えても不思議ではない。それに今回はプライバシー保護を隠れ蓑にできる。こう考えると、説明責任を果たさないことこそが現実的な対応であると信じていたことに根拠が全くないとはいえないのである。
だから、私はフジテレビ社長の会見を理解できるような気がするのだが、ここにフジテレビの「勘違い」があったのではないか。
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