「三菱銀行立てこもり事件」強行突入までの緊迫ドキュメント…“犯人狙撃”で解決も「本部長」が最後まで明らかにしなかった“重要情報”とは
またしても中断
梅川は立てこもり中、自分の目が届きにくい危険を回避しようと、人質行員2人に「見張り役」をさせ、警察官の姿が見えたらすぐに言うように命令していた。朝8時、見張り役が交代した。そのうちの一人の男子行員は前日の27日、これも梅川の命令により、銀行の金500万円余りを持って銀行を抜け出し、梅川の借金を返しにバーなど8か所をまわっていた。夜遅くに戻ってきた時、捜査幹部から “その時”に備えて協力して欲しいと頼まれていたのだ。
〈八時。ツキは完全に特捜本部の側に回ってきた。人質の見張り要員が交代し、見張り位置に(前述の行員が)立ったのである。その位置は、突入隊が忍びこむ西側通用口とつながる通路から一直線に見通しがきく絶好の場所なのである。(略)狙撃隊長の松原警部が素足になり、そっと下へ降りていった。だれも無言だった。松原を含む六人の狙撃隊員が西側通用口に集結した〉(『ドキュメント新聞記者:三菱銀行事件の42時間』読売新聞大阪社会部著・角川文庫)
だが、ここで異変が起きる。梅川が警察の突入の気配を察したのか、別の人質行員に自分の帽子、サングラス、上着を着けさせ、弾を抜いた猟銃を持たせて、自分が座っていた支店長席に座らせた。そして自分はけん銃を手に人質の列に座り込み「どうや、この格好で人質解放やいうて、わしも表に出るんや。うまいこと逃げられるやろ」と人質に話した。
ここでまたもや突入は中止となる。だが、その20分後、梅川は服や帽子を戻し、元の服装に戻ったことが確認された。再度、突入準備。6名の特別検挙班が息を殺し、ほふく前進で銀行内に入った。
8時28分、梅川は猟銃に弾を装填し、近くにいた4人の女子行員以外の人質を、全員外向きにさせて、自分は“指定席”である支店長席に座った。
同35分。右手にけん銃、左手で新聞を読むが、時おりけん銃を机に置くことも。
同40分。朝食で差し入れられたメロンを食べながら新聞を読み終え、けん銃を机の上に置き、煙草を吸う。サングラスを外したりかけたりしている。その近くで、4人の人質が新聞を読んでいる。
――今だ!!
特別検挙班員6名は、バリケード中央最上段、そして西側と東側の事務机の上から2名ずつ計6名が同時に飛び上がり、人質の頭上越しに一斉狙撃。
「拳銃8発を発砲。犯人は『殺すぞ』と絶叫しながら床に倒れ込んだ。8時42分に制圧逮捕され、発生以来42時間12分にして最終的な人質25人は無事救出された」(警察庁の資料より)
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