「三菱銀行立てこもり事件」強行突入までの緊迫ドキュメント…“犯人狙撃”で解決も「本部長」が最後まで明らかにしなかった“重要情報”とは
突入決定
梅川は支店長席に座りながら、右手に猟銃、左手に撃鉄を起こしたけん銃(被害警察官のもの)を持ち、人質を見回っている。何かを食べたり飲んだりする時は、猟銃を置き、けん銃を右手にもち替える。顔を洗う時は、洗面器を机の上に置き、右手に銃を持ち、左手で顔の左部分を洗い、右部分を洗う時は動作を逆にする。銃を離すことはない。ときおり人質に「やったろうか、おおっ!」とか「撃ち殺すぞ」などと銃を向けて怒鳴りつけるのは、眠気覚ましの要素もありそうだ。
2日目の夜。27日午後7時30分ごろのこと。ワインの銘柄を見ているが、時おりサングラスを外して目をふいている。疲れが出てきたようだ。人質はほとんど寝ているが、梅川は眠るわけにはいかない。ラジオを聞きながら猟銃を構え、支店内の階段方向を特に注視しながら、けん銃を撃つ仕草をしていた。
そして28日午前零時すぎ。男子行員に命じて、もう一人の被害警察官、前畠巡査のけん銃を遺体から奪う。この頃、両手に銃を持ちながら寝ている様子も見られたが、自ら電話をかけてきて、
「櫛3本、歯ブラシ3本、乳液2本、カミソリ、石けん、半そでシャツ、半パッチ、タオル5本持ってこい」
午前2時過ぎ、梅川の指示で、犠牲者4人の遺体が運び出され、捜査員がただちに収容した。4時過ぎには朝食の注文を取り、人質の女子行員から電話が入る。スパゲティ3つ、コールドビーフ、きつねうどん1つ、おにぎり20個、メロン5個、あられ一袋、バタートースト、ゴミ袋、ストッキング、みそ汁12杯――。
捜査幹部は決断した。そろそろ限界だろう。今朝を期に、突入、制圧――。
銀行近くに横付けされた機動隊車両に控えていた特別検挙班は、次々と送られてくる偵察情報を注視していた。午前5時14分、連載第1回で紹介した、時刻を間違えた梅川が朝食の催促の電話をかけてくる。7時ごろ、人質全員が起床すると同時に、朝食が差し入れられた。7時50分ごろに朝食は終了。梅川は帽子とサングラスを外し、洗顔してヒゲを剃り始める。
[2/4ページ]