人質の耳を削ぎ落とし、服を脱がせて“人質の盾”に…「三菱銀行人質事件」残虐にして猟奇的な“犯人”と“大阪府警”息詰まる42時間の攻防
「弾はなんぼでも持っている」
至急報を受け、現場にかけつけた府警機動警ら隊員らも犯人に対峙したが、行内に横たわる2人の警察官が動かないのを目撃する。声をかけても反応はない。さらに降りかけたシャッターを視認するや、機転を利かせて自転車や看板を挟み、約35センチのすき間を作ることに成功する。
午後2時46分、所轄の住吉警察署刑事課長が現場に到着。先着していたパトカー「住吉400」号を現場指揮所として開設した。その1分後には8台のパトカーと30人の警察官で銀行の周囲を封鎖すると共に外周警戒にあたった。
そして2時52分――。事件発生からわずか20分ほどで、その要請は出された。「機動隊特別検挙班」の出動である。3時22分、松原警部以下16名が現場に到着。時を同じくして新田勇・大阪府警刑事部長も現場へ。銀行2階の支店長室に現地捜査本部を開設した。
午後4時46分。1回目の電話が犯人・梅川からかかって来た。かけた先は110番で大阪府警通信指令本部員が受信する。
「一人ひとり殺していこうと思っている。今、4人死んでいる。弾はなんぼでも持っている。警察官が入ってくれば人質を殺す」
同4時50分、所轄の住吉警察署長が説得に乗り出すが、犯人はそれに応じず発砲で答えた。この時、「お前が一番落ち着いている、生意気だ殺してやる」と犯人に言われ、右肩を撃たれた行員は、こう証言している。
〈生きたかったが全身に感覚がなくなった。ドクドクと音を立てるように右肩から流れる血を見て私は死ぬと思った。犯人の指示で(別の行員が)私の生死を確かめさせられ「死んでいます」と言ってくれた時は嬉しく、心の中で泣いた〉
この時、犯人は倒れている行員の耳を切り取るように別の行員に指示。被害行員は一切声をあげず、痛みと恐怖にひたすら耐えた。人質が持ってきた耳介を見ながら犯人は、こうつぶやいたという。
「焼いたら、うまいやろうな」
6時45分、支店次長が行内電話で1階に電話を掛ける。
「支店長を出してくれ。他の行員はどうしているか? あなたの要求は何か?」
「わしが犯人や。支店長は死んだ。女子行員は全員、服を脱がせて人質にしている。すでに4人死んだ。1927年製のワイン、シャトーマルゴー2本とビーフステーキ、サーロイン400グラム持ってこい!」
この言葉に嘘はなく、犯人は支店長殺害後、男子行員の上半身の服を脱がせ、机やキャビネットなどでバリケードを構築させた。銀行入口から入るとまずカウンターがあるが、その奥に机でバリケードを作り、さらにまた奥にある支店長席に犯人は陣取った。そして人質全員をカウンター内の中央部に扇形に一列で並ばせ、19人の女子行員の服を全て脱がせて机の上に座らせた。
特別検挙班は、犯人がたてこもった支店長席から、壁を挟んで間裏にあたる支店1階通用廊下で待機した。動きやすいようにトレーニングウエア上下に着替え、足音をさせないように素足だった。そして支店長席から見て右側にあたる支店東出入り口にあるCDコーナーのすき間から、警備第二課管理官が四人の部下と交代で犯人の動きを監視、無線で連絡を送った。その右斜め前方には、既に息絶えた楠本警部補が横たわっていた。
犯行直後、銃声を聞いてすぐに逃げ出した客もおり、結果的に行員と客、計44人を人質に犯人は立てこもった。
1月27日午前1時45分――。犯人に衣類の提供や車の準備など、犯行をほう助した男(31)が岐阜県警に逮捕され、男の供述から犯人の名前が判明する。
大阪市住吉区に住む元バーテン、梅川昭美(30)だった。
【第2回は「『表にポリ公ようけおるな』…三菱銀行事件『梅川昭美』の大胆不敵な要求 捜査本部がどうしても避けたかった『ふたつの差し入れ』」緊迫する犯人と捜査本部のやり取り】