低迷する香港映画は「今が一番大変」だが「希望も見える」 「九龍城砦」アクション映画で“時の人”となった監督が語る「やるべきこと」
第1回【超リアル再現の「九龍城砦」アクション映画が遂に日本上陸 ソイ・チェン監督が元住人への聞き取りで知った「伝説のスラム街」の意外な実態】を読む
「九龍城砦を舞台にしたアクション映画」という概要からすると、有名カンフースターによるかつての香港アクション映画が想起される。だが、昨年に香港で大ヒットした「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(原題:九龍城寨之圍城)」は、さすがのテクニックと存在感を発揮するベテラン陣と、そこに食らいつき、先へ進もうとする次世代陣という構図が新鮮だ。
この混合編成について、ソイ・チェン監督はインタビュー第1回で「世代交代」というキーワードをあげた。さらに「世代交代」とは、香港映画界の現状を踏まえたものでもある。近年は失速が指摘されている香港映画界だが、今後はどのような道を歩むのか。
(全2回の第2回)
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【写真】香港空港が「九龍城砦」になった!? リアルすぎるセットが特別展示された時の様子
ベテランと次世代が肩を並べた撮影現場
チェン監督は「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」の現場で、キャリアが異なるベテランと次世代の俳優陣をどのように導いたのか。「役者の意見を積極的に受け入れるタイプだと自分では評価している」とチェン監督は笑うが、同作のアクション監督を務めた谷垣健治氏によるとそれは事実。撮影した映像を前に、役者を交えた活発な意見交換が繰り返されたという。
「監督としては、新人であろうとベテランであろうと、キャラクターに関する話し合いをしなければなりません。キャラクターを一緒に作っていくわけです。彼らが自分の役柄をどう見ているのか、どう考えて演じたいのかといったことをじっくり話します。撮影の時に機会があれば、すぐに役者とこういったコミュニケーションを図ろうとするのが私のやり方。彼らも話し合いを通して、自分の役柄を深く考えることができます」
現場の雰囲気自体は、常に和やかだった。
「若手たちは先輩たちをとても尊敬していて、礼儀正しかった。先輩たちも、格好つけたり威張ったりすることは一切ありませんでした」
またチェン監督自身にも大きなチャレンジがあった。詳細は作品を観ていただくとして、本作には観客の予想を裏切る展開がある。
「観客がどうすれば抵抗なくこの展開を受け入れることができるのか。私の意図はわざわざリスクを冒すことではないので、映像を通してこの部分をどう表現して、観客に納得してもらうかは、監督にとっての宿題であり、やるべきことです。もちろん心配はありましたが、一生懸命やりました」
若手の起用は「やるべきこと」
今や屈指の人気監督となったチェン監督だが、映画界に入った19歳の時から順風満帆だったわけではない。下積み時代を経て01年に初の商業映画を監督し、08年には学び直しの意図もあって、名監督ジョニー・トー氏らが率いる制作会社に参加した。14年には中国大陸の映画界に進出し、「西遊記」シリーズ3部作をヒットさせている。
近年は拠点を香港に戻し、フランスでも高評価を受けた「リンボ」(21年)、香港電影金像獎の最優秀監督賞を受賞した「マッドフェイト」(23年)で実力を見せつけた。さらに「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」はカンヌ国際映画祭の「ミッドナイト・スクリーニング」部門で上映され、米アカデミー賞・国際長編映画賞の香港代表に選出された。
下積み時代から現在まで、あらゆる立場から香港映画界に関わってきたチェン監督だからこそ、「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」は世代交代の話になったのだろう。多数の若手を起用した理由も、香港映画界に次世代の担い手が不足しているという現状ゆえだ。
「監督としてできることは映画を撮ることだけですから、私としては今後、自分の映画により多くの若手に登場してほしいですね。彼らに関わるチャンスを与えたい。若手が『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』のようなアクション映画に出ることも、より多くの観客に知ってもらうことにつながります。そうしたことは、私がこれからもやらなければならない約束のようなものではなく、やるべきことだと思っています」
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