伊豆大島「リゾートバイト人骨遺棄事件」は不倫関係のもつれだった 「“自供なし”では厳しかった」2日間20時間以上にわたる取調室での攻防
3カ月間、島民たちは事件の話で持ちきりだった
柳瀬容疑者は畳店を経営していたがそれだけでは食えず、夜は飲食店などでバイトする生活を送っていた。
「島内では酒好きとして知られていた。遊び人で、高瀬さんと真剣交際していたわけではなかったようです。一方、高瀬さんは柳瀬容疑者に本気になっていたため、諍いが絶えなかった」
柳瀬容疑者は高瀬さんとの交際トラブルをこれまで2度警察に相談していた。
「1度目は23年9月。高瀬さんが刃物を振り回し自殺すると騒いだ件で、これを機に高瀬さんは島を離れました。2度目は昨年5月で、『高瀬さんからの電話がしつこい』という内容でした」
どう考えても柳瀬容疑者が怪しいーー。警視庁がそう疑い捜査を本格化させた。やがて事件は島民たちに知れ渡るようになった。
「骨が出てきてからしばらくして警視庁は『30代くらいで行方不明になった女性を知りませんか』と書かれたチラシを配っていた。その後、あちこちで捜査員が聞き込みをしていくうち、6500人しかいない島民は事件の話で持ちきりになりました」
一方で、高瀬さんの知人はSNSで高瀬さんの写真をアップして〈沖縄旅行に行くを最後に連絡がつかなくなってるそうです。荷物も全てあるそうです〉〈心当たりのある方はご連絡お願い致します〉などと呼びかけていた。その情報も一部の島民たちは共有していた。
「2人は堂々と不倫していたので、関係を知っていた人も少なくなかった。一部では『柳瀬が怪しい』というウワサも広まっていたが、本人は平然と暮らしていたようです」
任意聴取後、一度帰ってきた柳瀬容疑者
だが捜査は難航した。
「本土と違って島内には防犯カメラは張り巡らされていない。見つかった遺体もわずか6つの骨だけです。逮捕状を取るには決め手にかけた」
そして警視庁は22日午前10時頃、証拠と自供を得るべくガサと同時に任意聴取に踏み切ったのである。だが初日は午後8時頃に帰し、柳瀬容疑者は親族宅に泊まった。
「すでに捜査情報をキャッチした在京メディアが押しかけている中での聴取でした。記者クラブ内では『否認しているのだろう。これは厳しいかもしれない』という空気感に一度はなりました」
翌23日、警視庁は朝8時半頃に柳瀬容疑者を迎えに行き、2度目の事情聴取が始まった。すると時間が経過するうちに、前日までの厳しいという見立ては変わっていったという。
「夜になっても柳瀬容疑者が署から出てこないからです。一般的に任意で引っ張り続けられる限度は10時間程度。このまま逮捕まで行くのではないかと誰もが思い始めた。そして日を跨いだ深夜、逮捕が発表されたのです」
どのような経緯で人骨になって発見されたかはまだわかっていないが、柳瀬容疑者は「自分がやりました。間違いありません」と容疑を認めているという。
「殺人についてもしゃべっていると思われます。何らかの秘密の暴露があったのでしょう」
遺体が6つの骨しかない厳しい状況の中での執念の捜査だった。今後、警視庁は殺人容疑でも立件する見通しだという。
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