「ロレックスが暴落」は本当か? 中国経済が低迷も「正規品販売店」に行列が絶えない理由
デイトナが定価以下で買えた時代
では、デイトナが定価以下で購入できた時代はあったのだろうか。1980年代はもとより、1990年代はまだ人気が低かった。90年代半ば、売れ残りのデイトナを定価の3割引で売り払ったという元正規販売店の話を聞いたことがある。当時販売されたデイトナは今ではマニア垂涎の腕時計であり、1000万円以上で取り引きされることもザラだ。
「2000年以降はおおむねプレミア価格が続いていましたが、2008年のリーマン・ショックの直後は、デイトナが定価よりも安く買えた珍しいタイミングでした。当時発売された時計雑誌にも、“ロレックス暴落”というセンセーショナルなコピーが掲げられています。その当時は、暴落したと言ってもいいかもしれませんね」(T氏)
とはいえ、暴落は一時的な出来事で、2010年前半になるとデイトナはもとのプレミア価格に戻ってしまうが、それでも当時なら、サブマリーナーやGMTマスターIIは正規販売店でも入手しやすかったし、店頭に並んでいることも少なくなかった。今では、それらのモデルは入手困難となり、かつては当たり前のように手に入ったオイスターパーペチュアルでさえプレミア価格になっている。
このように、どんなに暴落したといっても、2008年の頃とは事情がまるで異なる。定価よりも高いことに変わりはないし、そもそもロレックスの人気はまったく衰えていない。肩を並べるブランドが出現する気配もないではないか。T氏が指摘するように、一時的に高くなりすぎただけで元に戻っただけと言ってよく、暴落したという指摘は的外れであろう。
国産ブランドが脅威にならない理由
ロレックスに限らず、スイス製の腕時計のブランドは数多くあるし、日本のいわゆる国産ブランドもいくつもある。いったいなぜ、ロレックスだけに人気が集中しているのか。T氏は、「ロレックスを脅かすようなブランドが出てこないからでしょう」と言い切り、「日本人としては国産ブランドに頑張ってほしいが、販売戦略に問題があると思う」と話す。
「結局のところ、国産ブランドはどんなに製品の作りを良くしても、家電量販店で安売りをやめないのが、ロレックスと肩を並べられない最大の原因でしょう。銀座などにブランド単体で特別なショップを出したり、数を絞った限定モデルを作ったりしても、ブランド名を掲げて量販店で売り続けるなら真のラグジュアリーブランド化は難しいと思います」
ロレックスもかつては、時計の問屋と取り引きがあれば柔軟に正規品を購入できた。例えば、イオンなどのショッピングモールに入っている時計チェーン店でも、正規品を購入できた時代があったのである。しかし、2000~2020年頃にかけて取扱店を大幅に整理したため、有名時計店や老舗百貨店でも取り扱いができない店が続出したが、特別感を出すことには成功したのである。
現在、ロレックスは正規販売店では原則として値引きができない。百貨店のカードで購入してもポイントがつかないのも普通だ。人気があっても、市場に出回る品物の数を調整しているため、憧れの存在として君臨し続けている。こうした価値の演出は、ルイ・ヴィトンやエルメスなど、海外のラグジュアリーブランドがもっとも得意にしていることである。
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