トランプ大統領を支える「一握りの権力者」 スキルの低い者を「不要」と切り捨てる“デジタル封建主義”が米国民を抑圧する
テクノロジー業界の危険なエリート主義
頼みの綱のAIも期待はずれに終わってしまうかもしれない。
米調査企業IDCはAIについて、「2030年までに世界経済に約20兆ドル(約3100兆円)の影響を及ぼし、世界のGDPの3.5%を占める」と予測している。
これに対し、2024年度ノーベル経済学賞を受賞したマサチューセッツ工科大学教授のダロン・アセモグル氏は、「喧伝されているほどの期待に応えられない」との見解を示している。同氏によれば、今後10年間にAIから大きな影響を受ける可能性のある仕事は全体の5%にとどまり、AIインフラへの莫大な投資は無駄になるという。
アセモグル氏はさらに、テクノロジー業界の人間観にも疑問を呈している。彼らはスキルの低い人間を「不要な存在」とみなし、一部の人たちがAIによって力を得れば良いという、非常にエリート主義的な態度をとっているというのがその理由だ。
「デジタル封建主義者」とも言える彼らが名実ともに実権を握れば、ほとんどの米国民にとって抑圧的な社会になってしまうのではないだろうか。
カナダとグリーンランドを“欲しがる”理由
AIの利用が資源浪費的であることも問題だ。
電力が大量に必要になることから、米グーグルは次世代原子炉「小型モジュール炉(SMR)」を開発する米カイロス・パワーから電力を調達する契約を結んでいる。だが、燃料であるウランの自給率が低いのがボトルネックだ。
AIブームのせいで米国の水資源が圧迫されるとの指摘も出ている。データセンターでの冷却や半導体製造のために膨大な量の水を必要とするからだ。米国の水資源は既に逼迫しており、AIの需要がこれに拍車をかけている。
トランプ氏の「カナダを51番目の州にする」「グリーンランドを購入する」という発言の背景には、テック業界の意向が影響しているのではないかと筆者は考えている。
カナダのウラン生産量は急増しており、世界トップに躍り出ようとしている。2035年までにウラン生産量は倍増する可能性がある。
グリーンランドの氷河から溶け出す豊富な水も魅力的だ。開発は進んでいないが、レアアースも大量に存在すると言われている。トランプ・ジュニア氏がグリーンランドに訪問した際、多くのテック業界関係者が帯同していた。
制約を抱えるテック業界にとってカナダとグリーンランドは垂涎の的なのだ。
だが、トランプ氏がごり押しすれば、北大西洋条約機構(NATO)は分裂し、最悪の場合、戦争になってしまうとの危惧が生まれている(1月10日付ニューズウィーク日本版)。
トランプ政権下で進む寡頭政治が、国内外に混乱をもたらさないことを祈るばかりだ。