迷走中の日テレに渦中のフジはどうだった? 「年始SPドラマ最優秀賞」を発表

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 年末年始はドラマ一挙再放送が定番になった民放地上波。恒例のスペシャルドラマも減った。新作を作れない台所事情に思いをはせる。ただし、「相棒」(テレ朝)だけは通常運転で元日SP。脅迫されて生放送で脂汗かくキャスター役がしっくりくる高嶋政伸や、相変わらず事件関係者に恋をしてフラれる陣川(原田龍二)に安堵したよ。藤本隆宏と櫻井淳子のピッチピチペアルックに笑ったし。食傷気味とはいえ、継続は力なり。

 同じくテレ朝で、世代交代を試みたのが「新・暴れん坊将軍」(1月4日放送)。松平健演じる徳川吉宗は将軍であることを隠して、お忍びで町に繰り出す。貧乏旗本の新さんとして庶民と触れ合い、声を聞き、悪事を暴いて成敗するのだが、今回は痴れ者扱いの長男・家重(西畑大吾)が、なぜか吉宗と同様にお忍び&暗躍する設定に。軽~く薄~く世代交代、終了。登場した途端に時空がゆがむGACKTも無駄に胸筋を披露して、色物の役割を全う。本田博太郎、小澤征悦、神保悟志、渋川清彦ら悪役にしか目がいかない。あ、マツケンの体幹不動の殺陣(たて)は好物だが。

 ドラマで迷走中の日テレ、完全にバカリズム頼み。不定期に放送する「ノンレムの窓」(5日)はフジの長寿番組「世にも奇妙な物語」を目指しているように見えなくもないが、メインは「日常のあるある」。中村倫也と古田新太のタクシーネタはいわば王道。原田泰造主演、フェイクニュース制作会社で世論操作というネタは鳥肌モノの「さもありなん」だ。重要な法案を通すときは政府主導でスクープを捏造。テレビ業界の闇を揶揄する内容でもあり。

 年末から渦中のフジでは、上野樹里の主演作「監察医 朝顔」新春SPを放送(3日)。東日本大震災のその後を丁寧に描き続ける真摯な作品であり、上野がおにぎりを頬張る姿は象徴的だ。悲しみと自責の念を抱えた朝顔が生きる力を取り戻した後を描く今作は、認知症と難病を患った父(時任三郎)に会いに行く場面で終わった。父娘の別れはまだ先のようだ。繊細で壊れそうだった朝顔が親をみとる心の準備をする年齢に。ヒロインの成長をそっと見守る親戚のおば気分だ。あ、酒向芳の熱演も書いておく。誘拐された幼い娘を35年捜し続け、復讐殺人を犯した男の役。朝顔が見つけた娘の遺骨に対面できた顔には、長年の苦悩と安堵と後悔がしっかり刻まれていたので。

 さて、年始SPドラマ最優秀賞は「スロウトレイン」(TBS・2日放送)かな。やっぱり松たか子の愚痴とダメ出しは最高だよ。定期的に聞きたいの、たか子が歌うように吐き出す愚痴と、相手に致命傷を与えるダメ出しを。妹(多部未華子)と弟(松坂桃李)、その恋人たち(チュ・ジョンヒョク&星野源)も加えて、家族の距離感を模索する物語だ。穏やかな展開だが、随所で差し込まれる鋭い刃のような言霊、脇役陣も含めて好物。連ドラで観たいやつや。

 てなことで民放地上波を応援するフリをしているが、実はNetflixのドラマを一気観&大興奮。配信系に流れる自分を止められない。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年1月23日号掲載

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