トランプ就任でどうなる韓国…「米中どちらの味方か」の岐路に 米有力議員は韓国左派を“内通者”と非難

  • ブックマーク

ペロシ事件が明かす「親米従中」

――韓国の保守は「親米だけど従中」ということですね。

鈴置:まさにそうです。2022年8月、米国のペロシ(Nancy Pelosi)下院議長が台湾経由で韓国と日本を訪問しました。もちろん、中国の台湾侵攻を牽制する狙いでした。

 ペロシ議長は当然、親米派の尹錫悦大統領と会えると考えていた。ところが尹錫悦大統領は「夏休み中だ」と言い出して面談を謝絶しました。

 さすがに韓国の保守系紙が批判しました。日本では岸田文雄首相には会う予定になっていたので「親米度」で日本に差を付けられると危惧したのです。結局、尹錫悦大統領はソウル訪問中のペロシ議長とは会わずに電話で話しました。

 同じソウルにいるのですから電話で話すのも、会うのも同じ手間です。だったら会えばいいのに、中国が恐ろしかったのです。かえって「従中」ぶりを露わにする結果となりました。

「ペロシ事件」も日本ではあまり報じられなかったのですが『韓国消滅』第3章第2節「従中を生む『底の浅い民主主義』」でお読みいただけます。

『米韓同盟消滅』

――韓国の従中を初めに指摘したのは『米韓同盟消滅』でした。

鈴置:この本は左派、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代の2018年9月に上梓したものです。文在寅時代の従中ぶりも書いていますが、その前の朴槿恵政権こそが、保守なのに韓国の従中を本格化した政権だった、と指摘しました。

 第2章の見出しを「『外交自爆』は朴槿恵政権から始まった」としたのも、そのためです。出版したのはたった6年前ですが、当時はまだ「保守=親米」との先入観が強かったので、驚きを持って受け止められました。

――朴槿恵時代に韓国の「離米従中」に気づいたのですか?

鈴置:ずうっと前、20世紀末頃です。中国が台頭してくるのを見た韓国の指導層の人たちが一斉に「これからは中国だ!」と言い始めたのです。

 ただ、当時は「離米従中」を示す外交的な動きが表面化していなかったので、近未来小説の形で書きました。2010年12月に出版した『朝鮮半島201Z年』です。

 2013年に米国のアジア専門家から「米韓同盟はいつまで持つか分からない」と聞かされました。保守の朴槿恵政権でさえ「離米従中」に動いたため、韓国は地政学的に大陸側の国と見切ったのです。そのうちに現実が追いついてきたので、ノンフィクションとして『米韓同盟消滅』を出版したわけです。

欲しいのは先進国の称号

――それにしても、自由と民主主義を謳う韓国が、中国側ににじり寄るのは腑に落ちません。

鈴置:韓国が本当の民主主義国ではないからです。今回の戒厳令騒ぎでも分かった通り、韓国人は民主主義というものを心から信奉しているわけではありません。

 だから世界で自由と民主主義を守ろうとか、西側に居続けたいといった心情にはならないのです。韓国人が願うのは「先進国の称号」です。それさえ与えられればいいのです。

 日本人が見落としやすい原因もあります。韓国人の心の奥底には反欧米の気分が潜んでいることです。韓国人は今、日本に対し植民地支配は不法だった、と認めさせるのに必死です。先進国になった以上、属国だった過去を消したいのです。

 でも日本はもちろん、過去に植民地を持っていた欧米諸国は韓国の訴えを無視します(『韓国消滅』)第4章第3節「『アメリカの平和』に盾付く覚悟はあるのか」参照)。

 米国だってハワイやフィリピンを併合してきたのです。フィリピンは独立させましたが、ハワイは州のままです。一方、力をつけた中国は併合前から自国民が住んでいたことを理由に「ハワイは中国領だ」と主張し始めました。そんな時に米国は「日本の植民地支配は不法だった」と認めはしないでしょう。植民地支配論はパンドラの箱なのです。

「トランプの嵐」で難破

――韓国人はフラストレーションを溜めている……。

鈴置:そこで思いもよらぬ時に思わぬ行動に出るのです。新型コロナウィルスが蔓延し始めた2020年春、欧米での蔓延がアジアよりも激しく見えた時がありました。すると韓国紙が一斉に「防疫でも東洋が西洋よりも優れている」「今後、西洋は没落し東洋の時代が来る」と書きました。

韓国民主政治の自壊』第1章第1節の見出し「『西洋の没落』に小躍り」通り、まさに国を挙げて小躍りする感じでした。そんな国は世界で韓国だけでした。

 そうした記事を読んだ瞬間、私は韓国が植民地だった過去をいかに消し去りたいのかに思い至りました。西洋が世界の価値基準を決めている間は、日本の植民地支配の不当性は認められない。東洋が主導権を握れば――との痛切な願いが伝わって来たのです。

――韓国は漂流中……。

鈴置:その通りです。米中間での自分の立ち位置を決められないのです。そのうえ1月20日に「何をするか分からない」トランプ氏が大統領に就任しました。「トランプの嵐」の中で韓国は沈没するかもしれません。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[5/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。