トランプ就任でどうなる韓国…「米中どちらの味方か」の岐路に 米有力議員は韓国左派を“内通者”と非難
戒厳令騒ぎが韓国に米中間での立ち位置を問う。韓国観察者の鈴置高史氏が注目するのは、大統領弾劾を進める左派を「米韓同盟の破壊者」と米有力議員が見なしたことだ。
「韓国左派は敵に内通」
鈴置:米外交誌に載った1本の小論文が韓国の左右対立に油を注ぎました。「The Hill」の「US-South Korean alliance vital for Indo-Pacific security」(1月6日)です。
書いたのは韓国生まれのY・キム(Young Kim)下院議員(共和党)。下院外交委員会で東アジア・太平洋小委員会の委員長を務め、米国のアジア政策に影響力を持つ政治家です。
見出しを見れば分かる通り、戒厳令や尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領への弾劾で韓国が大きく揺れる中、「米韓同盟が米国の安全保障にとって必須だ」と説いた論文です。韓国の保守を鼓舞した半面、左派を激高させたのは次のくだりでした。
・While the U.S.-ROK alliance enjoys wide bipartisan support in the United States, factions, including those that have led the presidential impeachments in South Korea, have been working to undermine the alliance and the U.S.-ROK-Japan trilateral partnership.
「米国では米韓同盟に対し超党派的な幅広い支持がある。一方、韓国では大統領弾劾を主導する党派を含め、いくつかの党派が米韓同盟と米韓日の三角協力を壊そうとしてきた」と指摘したのです。もちろん「弾劾を主導する党派」とは野党第1党「共に民主党」をはじめとする左派のことです。
キム議員は証拠として「当初の弾劾訴追案で、大統領が北朝鮮、中国、ロシアに敵対的であり、北東アジアで韓国を孤立させ、あまりに親日的であることを理由にした」ことを挙げました。
さらに、「中国共産党や北朝鮮政権といった我々の敵は、我が同盟の弱みにつけ込んで不安定な状況を利用する方法を模索している。韓国における政治的不安定と反米プロパガンダの高まりは我々の敵に青信号を灯す」と断じました。「共に民主党」こそは、敵への内通者と認定したのです。
すかさず引用した朝鮮日報
保守系紙、朝鮮日報はこの小論文を見逃しませんでした。翌1月7日、ワシントン支局のキム・ウンジュン特派員が「ヤング・キム『尹弾劾主導勢力、韓米同盟と韓・米・日パートナーシップを毀損』」(韓国語版)で引用したうえ、「米政界で弾劾主導勢力を糾弾する声が出たのは初めて」と意義付けました。
尹錫悦大統領の弾劾騒ぎを通じ左派は米韓同盟を潰すつもりだ――と米国も見ていると訴えたのです。弾劾反対派の保守が太極旗と共に星条旗を掲げるのと同じ狙いです。左派が政権を握ったら米国に愛想を尽かされ同盟がおかしくなるぞ、との警告です。
韓国人の約9割が米韓同盟が必要不可欠と考えている。左派には反米的なポーズを打ち出す人が目立ちますが、無記名のアンケートでは「同盟は必要」と答える人が多いのです。
左派系紙ハンギョレは反撃に出ました。「内乱擁護のヤング・キム米下院議員に『チョン・グァンフン牧師との関係を明らかにせよ』」(1月11日、韓国語版)で、在米韓国人団体「民主参与フォーラム」が尹錫悦の親衛クーデターを擁護するキム議員を非難した、と報じました。
チョン・グァンフン牧師とは韓国で極右ユーチューバーと呼ばれている人物です。尹錫悦大統領が戒厳令に踏み切ったのは極右のユーチューバーに感化されたためだ、との説が韓国で広まっており、キム議員もその程度の人間と決め付けたのです。
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