「おかあさんは恋に落ちたんだよ」怒りも嘆きもしない父… 自由すぎる親に反発した45歳夫が結婚相手に求めたもの

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母、突然の帰国

 宏一さんが25歳のとき、唐突に母が帰国した。どうやら恋に破れたらしい。父が喜ぶかと思ったのだが「おかあさん、かわいそうだな」とつぶやいた。それが父なりの愛し方なのだと、彼はようやくわかったという。

「ところが帰ってきた母は案外元気で、『私にはやっぱりおとうさんしかいない。こんなに素敵な人が身近にいたのに恋なんかしちゃって』としれっと言ってる。父は父で『戻るところがあってよかっただろ』なんて照れている。バカップルなのは重々承知だけど、いい関係だなあと思いましたね」

 3年後、彼は父の元から独立して、自分で小さな事業を興した。まずは父の会社と取り引きし、そこから顧客が少しずつ増えていった。

「学生時代の先輩が加わってくれ、彼の人脈を駆使して何とか食えるようになったという感じです。今も従業員は僕を含めて5人だけの小さな会社ですが、5人が生活できているってすごいことだなと思っています」

 仕事の目処がたったころ、その先輩が「妻の女子大時代の後輩」を紹介してくれた。愛美さんという、同い年で、おっとりしたタイプの女性だった。

「31歳のときでした。彼女は20代半ばにしか見えなかった。童顔でかわいくて、なんとなく守ってあげたくなる人でした。何度か会ってプロポーズしました。僕は会社の代表といっても、すごく儲かる仕事でもない。それでもいいかと聞いたら、『私は私で仕事を続けるから』って。おっとりしているけどしっかりしている。彼女となら、普通の家庭を築ける。僕の中の“常識への憧れ”が復活した瞬間でした」

 結婚後は仕事にもより集中することができた。長くひとりで暮らしているから、宏一さんは家事ももちろんこなせる。フルタイムで働く妻とは、わざわざ役割を決めなくても、阿吽の呼吸で家事を分担することができた。

 2年後、ひとり息子が生まれた。妻は育休と産休をしっかりとって仕事に復帰した。無理をせず、日々を穏やかに過ごし、家庭を大事にする。そんな妻の生き方に宏一さんは癒やされた。思えば、両親の生き方は刺激的すぎた、自分に向いているのはこういう生活だと彼は痛感したという。

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 一風変わった家庭で育った宏一さん。自身は家風とは距離を置いていたようだが、その“血”はやはり争えなかったのか……。彼の不倫のてん末は記事後編で紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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