実は“女性読者”が支えていた「WiLL」「Hanada」の知られざる実態…安倍元総理の死去、ネット“陰謀論”時代の到来で“右翼雑誌”に活路はあるか

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“立ちんぼ女子”と夫婦同姓

 夫婦別姓の問題に戻れば、梶原氏は一部の保守派が主張する「別姓が実現すると、日本で家族の一体感が失われる」との主張にも疑問を抱いているという。

「新宿・歌舞伎町では女性が路上に立っていることが大きな社会的問題になっています。彼女たちの中には親に虐待されるなど家庭内に問題を抱え、家族とは一緒にいられないと家を飛び出してきた女性もいるでしょう。今の日本は夫婦同姓ですが、一体感が失われた家族は珍しくありません。保守派の中に『夫婦別姓論者は家族の解体、戸籍制度の崩壊を目論んでおり、最終的には日本社会の破壊を目指している』と主張する人はいますが、すでに壊れている家庭に対しては冷淡ですよね。もちろんリベラル派も、兄弟間で姓が変わってしまうのか、姓をめぐる家族間の争いが勃発しかねないのでは、『誰々家の墓』というスタイルはどうなるのかなど、保守派の恐怖心や疑問への応答があってもいいと思うのです」

 梶原氏は新書が書店に並ぶ前、「右派も左派も無視するか、両方から叩かれるか、そのどちらかだろう」と予想していたというが、結果は全く違った。複数のメディアから著者インタビューが依頼され、Xや書籍のレビューサイトでは絶賛する投稿が相次いだ。

不可解な「新しい戦前」論

 次回作が期待されるが、梶原氏には腹案があるという。テーマは「新しい戦前」。2022年12月にテレビ番組「徹子の部屋」にタモリが出演し、黒柳徹子が「来年はどんな年になる」との質問に「新しい戦前になるんじゃないですかね」と答えたことが発端だった。

「タモリさんの発言意図は不明ですが、『ああ、それは保守派がずっと言ってきたことではないですか』と思いました。中朝露という対外的な脅威を考えれば、少なくとも2000年代に入ってからはずっとそうです。ところがこの発言に反応している人たちの中には『アメリカが台湾有事を仕組み、日本が参戦させられる』『日本が軍備増強し、着々と戦争に備えている』と主張し、それを『新しい戦前』と呼んでいる人が多いようなのです。中国が軍拡を数十年も続け、台湾統一の意志を明らかにしていることが、彼らの認識から完全に抜け落ちている、見ないようにしていることに驚いてしまうのですが……。この問題に関しては安全保障の専門家がリアルな視点で精緻な議論を積み重ねています。私も編集者として長年、関心を抱いてきたテーマですから、単にリベラルな意見を批判するだけでなく、分かりやすく『新しい戦前』論の誤謬を指摘し、東アジアのパワーバランスについて正確な見解を示すという著作を出版できればと考えています」

 第1回【“右翼雑誌”と呼ばれても「WiLL」「Hanada」が絶大な支持を集めた理由…元編集部員が明かす「他の月刊誌ではありえない」名物編集長の仕事術】では、梶原氏の生い立ちや、花田氏に「右翼少女」と呼ばれながら、編集者として成長していく姿を詳細に報じている──。

デイリー新潮編集部

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