実は“女性読者”が支えていた「WiLL」「Hanada」の知られざる実態…安倍元総理の死去、ネット“陰謀論”時代の到来で“右翼雑誌”に活路はあるか
検証不可能という大問題
「とはいえ、兵庫県知事選で大きな問題だと思うのは、『この動画・情報が有権者の投票行動に影響を与えた』と検証することが不可能だという点です。同じ『動画』でも、陣営が公式に配信した街頭演説などの動画や、影響を与えたと考えられる著名人の公式YouTubeチャンネル、運営者が明確な動画チャンネルやアカウントから発信されたものなら検証は容易でしょう。しかし、そうした動画を元に新しい動画が無数に作られ、それも拡散しました。その全てが有権者に影響を与えたはずですが、そのプロセスを調査のため遡ることはかなり難しいでしょう」
収益の問題も重要だろう。かつて「ネット右翼」が竹島問題についてmixiに意見を書き込んだ時、「儲けよう」という動機は皆無だったに違いない。しかし兵庫県知事選では、収益を目的に動画を作成したYouTuberが相当な数に達した。
「これでは『政治的言説の責任を問う』というレベルにすら達していません。作成者不明の動画が金銭目的に配信され、拡散していくことで選挙に影響を与えるが、影響を及ぼした主体が責任を感じることもない。確かに『ネトウヨとネトサヨが殴り合っていた時代のほうが、何らかの思想性があるだけまだマシだった』と指摘されても不思議ではないと思います」
無視された稲田朋美氏の提案
梶原氏が憂慮していることの一つに、最近のネット上では「あらゆる問題で旗幟を鮮明にしなければならない、という強迫観念がある」との傾向があり、それが悪影響を与えている点だ。
「例えば夫婦別姓の問題です。国会議員の稲田朋美さんは『結婚して同姓となり、3カ月以内に届け出れば旧姓を使い続けられる』という制度を提案しています。私も結婚し、旧姓で仕事を続けていますから、旧姓を法的に根拠ある形で使い続けられることの意味は理解しています。稲田さんの提案は検討に値すると思うのですが、右派は『稲田が別姓派になり、保守を裏切った』と非難し、左派はあえて『右派議員の稲田が提案したこと』を取り上げる必要はないというスタンス。双方にとって実を取れる(大事なものを守れる)現実的な提案だと思うのですが、右派と左派の両方から取りこぼされ、議論が深まりません。しかも右陣営では『夫婦別姓反対の声をあげなければ保守ではない』と見なされるし、左陣営ではその逆でしょう。じっくりと議論を積み重ねる機会が失われていくわけですが、こうした傾向は夫婦別姓に限らず、あらゆる分野で強まっているように思えます」
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