実は“女性読者”が支えていた「WiLL」「Hanada」の知られざる実態…安倍元総理の死去、ネット“陰謀論”時代の到来で“右翼雑誌”に活路はあるか
膨らんでいく疑問と不安
「少なくとも安倍政権は、なぜ政府主催の式典を開かないのか、国民に対して丁寧な説明を行うべきだったはずです。しかし保守陣営からの『説明責任を果たすべきだ』という厳しい指摘は少なかった。首相による靖国参拝も同様ですが『安倍さんだって本心ではやりたいのだから、あえて批判することはない』といったムードを感じていました」
梶原氏が編集者として一人前に成長していくと、「保守言説の世界では正しいとされ、定説となっている情報」にも間違いを見つけたり、新たに判明した新事実で前提が覆ったことを把握することが増えた。尖閣諸島や慰安婦といった重要な問題でも、保守派の主張に複数の“事実誤認”を確認してしまう。次第に梶原氏は自身の仕事に対する疑問が膨らんでいく。著書から引用しよう。
《「WiLL」はさらに部数を伸ばしていくが、ゲリラ部隊員としての筆者は、雑誌の隆盛とは逆に、ここから一層「これで本当に大丈夫なのか」を思い詰める暗黒期に入っていくことになる》
《「愛読していた雑誌の編集部に入ることができ、執筆陣に会って、自分の読みたい記事の企画を実現できる楽しさ」を無邪気に享受できる状況ではなくなってきてしまったためだ》
大事件の発生
「今、冷静な気持ちで振り返れば、私自身の視野が狭くなっていたとは思います。ただ、記者なら自分で取材し、ファクトチェックを行って記事を書くことができます。一方、月刊誌の編集者は誌面に掲載したいテーマがあり、それを執筆してくれる書き手を探して依頼するのが基本的な仕事です。特に2014年は特定秘密保護法、集団的自衛権行使容認の閣議決定、朝日新聞の慰安婦報道誤報問題、2015年には安保法制議論……と、国内外の政治はめまぐるしく動きました。ところが専門的な論争においては、ある種の『オピニオン』だけで書いてしまうわけにはいきません。しかしそもそも私自身が、これらの政策についてしっかり全容を把握できているわけでもない。また、政治上の左右の摩擦が高まる中にあっては難しい、『あえて保守からの安倍政権批判を書くべきだ」という視点に私が固執したために、原稿を依頼できる書き手を自分で減らしてしまい、行き詰まりを感じるようになったのです」
この時点で梶原氏は一度、退職を決断したのだが、編集部に大事件が勃発する。2016年3月に「WiLL」の編集長だった花田氏が発行元のワックと対立し、飛鳥新社に移って「Hanada」を創刊することになったのだ。
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