電気警棒で殴られ、生きたまま臓器を摘出…中国人俳優「誘拐事件」は氷山の一角、“東南アジア詐欺拠点”の地獄絵図

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22年に中華圏を震え上がらせた報道

 タイで消息を絶った中国人俳優・王星さんがミャンマーの詐欺拠点から救出されたことをきっかけに、中華圏では新たな救出劇が続々と報じられている。台湾では年末に同じくタイで消息を絶ったファイヤーダンスの演者が、香港ではかねて消息不明だった12人 がミャンマーからの生還を果たした。香港・台湾当局がタイ当局と素早く連携した背景には、これまでの経験と、一刻も早い救出を求める世論の高まりがある。「東南アジアの詐欺拠点」は巷で「またか」と言われるほど有名な存在なのだ。

 詐欺拠点とされているのは、ラオスとミャンマーの国境付近、そしてカンボジアだ。そこから仕掛ける詐欺のターゲットとして大きな被害を受けているのは中国 である。2016年頃からネットを介した詐欺被害が急増したため、国内(内地)拠点の摘発と並行して、海外で現地当局と連携し、詐欺の容疑者を強制送還させるようになった。

 19年に香港メディアが報じた内容によれば、中国当局は16年からラオス、スペイン、インドネシア、フィリピン、ミャンマーに人員を度々派遣し、強制送還用のチャーター機を8回飛ばした。近年は国境を接するミャンマー北部での摘発にも力を入れているが、現地および周辺国の当局の癒着なども指摘されており、完全な撲滅に至っていない。

 19年の時点で、偽の求人広告などで騙され、詐欺拠点で“勤務”させられた人たちの証言は報じられていたが、21年の後半からは「残酷な人身売買」という面が強調されるようになる。22年の夏には、詐欺拠点の内情を暴露する多数の報道が中華圏を震え上がらせた。その残酷な内容は、王星さんの件を受けて次なる救出を望む声が上がるのも当然と思えるものだ。

1週間で4度「転売」された地獄

 台湾の非営利メディア「報道者」は22年8月、カンボジアの詐欺拠点から脱出した台湾人女性の証言を掲載した。24歳の彼女はコロナ禍で職を失い、台湾人エージェントから海外就職を斡旋されたという。だが、プノンペンに到着するとすぐに台湾人の男にパスポートを没収され、悪名高いシアヌークビルの詐欺拠点へ。そこから脱出までの1週間で4度も詐欺会社に「転売」され、地獄を見る。

 台湾人の男から2万5000ドルで彼女を買った1社目は、指示に従わなかったとして電流警棒で殴り、その夜のうちに同じ値段で2社目に売った。2社目は彼女に性的暴行を加え、3社目に売却する価格を2万8000ドルに引き上げた。詐欺の仕事を命じたのは2万7000ドルで売られた4社目で、拒否した彼女を性的暴行や冷水シャワーなどで痛めつけた。

 幸いにも脱出できたのは、スマートフォンが手元にあったからだという。彼女が監視の目を盗んで傷の画像とメッセージをSNSに投稿すると、それを見た妹が台湾外交部の緊急連絡センターに通報した。

 拘束の際にスマートフォンを取り上げない例は意外と多い。中国では、ミャンマーで働く身内と1年以上連絡を取り合っていたが突然途絶え、警察に相談したところ詐欺拠点にいる可能性を指摘された例もある。

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