高校野球「7イニング制導入」なら“公立の星”は有利に!? 過去の試合を分析すると見えてくる“負の側面”とは
1月10日、日本高野連が「7イニング制等高校野球の諸課題検討会議」を開き、7イニング制への移行の可否を検討する議論をスタートさせた。近年はタイブレーク制、投球数制限、申告敬遠、継続試合、低反発バット、夏の甲子園の2部制と新制度が矢継ぎ早に導入され、DH制導入も検討されている。【久保田龍雄/ライター】
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「2部制導入」で思わず首を傾げる場面も
だが、これらの新制度は、必ずしも良い面ばかりとは限らないのも事実。昨夏の甲子園大会決勝、京都国際対関東第一は、2006年夏の決勝、早稲田実対駒大苫小牧(延長15回引き分け)のような名勝負になり得たかもしれない試合を延長10回タイブレークで強制終了させた感があった。私見だが、地方大会と甲子園の決勝は、やはりタイブレークなしが望ましい。
また、昨秋の九州大会準々決勝、沖縄尚学対鹿児島実は、雨天で7回以降試合続行が困難な状況だったにもかかわらず、8回に沖縄尚学が決定的な3点目を挙げるまで強行されたことから、「第2試合が行われる午後に雨が強くなるとわかっているのに、継続試合ありきで始めるのはどうなのか」の疑問も呈された。
そして、7イニング制についても、現場の監督や識者、ファンの間で「野球の根本を覆すもの」「9イニングでは3打席回ってくるのに、7イニングでは2回しか打席が回ってこないこともある」など、異を唱える声が高まっている。
7イニング制を導入する理由は「球児たちの健康を守るため」とされている。2イニング短縮されることによって、確かに選手たちの疲労は軽減されるだろうが、イニングが短くなる分、控え選手の出場機会も少なくなる。
また、エース級を複数揃え、継投も可能な私立強豪に対し、選手層の厚くない文武両道の公立校が逃げ切り勝ちできる可能性も高まると予想される。言い換えれば、これらのチームは、8、9回の2イニングで、“絶対エース”がスタミナ切れしてしまうことがネックだった。
7イニング制なら勝っていたはずのチーム
過去の試合を振り返ってみると、21世紀枠導入以前では、1984年の選抜に出場した大阪きっての進学校・三国丘が思い出される。
前年秋の近畿大会で2回戦敗退(16強)ながら、「大阪大会決勝でPL学園に善戦(0対1)した」「エース・松田光広は、大阪ではPL・桑田真澄に次ぐ好投手」などの理由から、近畿大会4強の近大付を逆転する形で選ばれた三国丘は、1回戦で日大三島と対戦。3対3の6回に本盗とスクイズで2点を勝ち越した。
だが、勝利まであと1イニングの9回、利き腕の右肘に死球を受けながらも8回まで146球を投げ抜いた松田が疲労から握力を失い、3連打と押し出し四球で1点差。直後、リリーフした一塁手が1死から右越えに逆転サヨナラタイムリーを浴び、5対6で敗れた。9回まで行われた試合を7回までで分断するのは、公正な比較ではないかもしれないが、7イニング制なら、おそらく三国丘は勝利していたことだろう。
投手の消耗度が顕著になる夏の甲子園では、それ以上の大どんでん返しがあった。
1993年の2回戦、久慈商対徳島商は、久慈商打線が大会屈指の本格派・川上憲伸(元中日など)を打ち込み、7回までに大量7得点。エース・宇部秀人も変化球中心の打たせて取る投球で7回まで4安打無失点に抑えた。地方大会ならこの時点でコールドゲームになってもおかしくない展開だった。
ところが8回裏、「最後は疲れが出た」という宇部が変化球の切れが鈍くなったところを狙い打たれ、一挙7失点で同点。9回にも3長短打を許し、悪夢のサヨナラ負けを喫した。
この試合も7イニング制なら、結果的に8回のビッグイニングは起きず、初出場の久慈商が、甲子園初勝利を挙げていたことだろう。
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