突出して巧い俳優が揃ったドラマ「ホットスポット」 バカリズム脚本に寄せられる期待

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ウソの応酬

 常連客・丸山四郎(清水伸)が泊まっていた406号室からテレビが消えているという。丸山は泊まるたびにアメニティグッズをごっそり持ち帰ってしまうことで知られていた。

「警察に被害届を出すしかないですかねぇ」(清美)

「うーん、支配人は警察沙汰にしたくないと思いますけど…」(中本)

 確かに支配人の奥田貴弘(ココリコ・田中直樹)は物静かな人物で、事を荒立てるのを嫌いそうだ。そこで清美は高橋に頼み、テレビの臭いを追ってもらう。丸山が自分の車で持ち帰ったかどうかを確かめるためである。

 清美は最初、高橋に念写を依頼した。そのほうが手っ取り早い。すると高橋は渋い顔になった。

「できない。念写はもう超能力じゃん。オレの場合はもとある能力を引き出すだけだから」 

 違いがよく分からないが、この設定はうまい。高橋に幅広い能力を与えたら、つまらなくなってしまう。ヒーローものはみんなそうだが、能力は限定されていてこそ面白くなる。

 結局、高橋が犬並みの嗅覚を使い、テレビが中本の車に積まれていることを突き止めた。テレビからは基盤が熱せられた臭いとホコリが混じった臭いがするそうだ。なるほど、そんな気もする。

 今度は疑われることになった中本は清美に対し、「あのテレビは私のです」とウソを吐く。シレッとしていた。清美がどう突っ込もうが動じなかった。

 ところが清美が「警察に連絡しましょうね」と言うと、「すみません、私です」とあっさり白旗を揚げる。犯罪絡みのウソは警察に弱い。

 清美もウソを吐いた。「支配人には言わないでほしい」という中本の願いを受け入れたように見えたが、すぐさま支配人に報告する。中本がシングルマザーであると偽り、それを免罪符にしようとしたことにイラッとしたからでもある。

 清美は高橋に言った。「中本さん、メッチャ独身生活を謳歌してますよ」。清美がフォローしている中本のインスタグラムには「久しぶりの韓国 今回は1泊2日の弾丸1人旅」と明るく書かれていた。本当にシングルマザーの清美は癪に障るだろう。

 清美がみなぷーとはっちにファミレスで高橋を紹介した場面は傑作だった。高橋が怪力を証明するために10円玉を指で曲げたりしたのだが、それより面白かったのは宇宙人としての自分の身体的特徴を説明したところ。背中が曲がっていること、冷たいものが歯にしみることを大真面目に説明した。

 ただの猫背と知覚過敏である。これにはみなぷーを演じている平岩も堪えきれず、笑い出した。つられたのか市川も表情を緩ませた。アップの場面ではなかったので、収録はそのまま続いた。出演者が笑うくらいだから、観ている側も面白いはずである。

 制作チームが「ブラッシュアップライフ」と一緒なので、カメラワークも映像の質感もほぼ同じ。

 出演者も重なる。「ブラッシュ――」ではなっちこと門倉夏希を演じた夏帆(33)は今回、ホテルのフロント業務を担当する磯村由美に扮している。前作ではテレビ局のヘアメイク係・丸山美佐に扮した野呂佳代は、今回はテレビを盗んだ中本こずえを演じた。

 前作では玲奈(成人後は黒木華)の父親役で保育士との不倫に走ろうとした勢登健雄(44)は今回も女性関係が派手な常連客に扮している。前作で成人後の玲奈と不倫した薬剤師・宮岡徹役の野間口徹(51)の場合、今回は宿泊客の1人。登場したのが回想シーンであるなら、高橋の父親という見方もできる。

 忘れてはならないのは田中直樹。前作では安藤サクラが演じた主人公・近藤麻美の父親・寛を演じ、今作ではホテルの支配人に扮している。どちらも穏健そうな男だ。

 重なり合う部分が多くても既視感が生じないのは、突出してうまい俳優が揃っているから。特に市川、平岩、鈴木の会話は、まるで近所の女性たちのおしゃべりである。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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