「サモ・ハンは天才。別次元の人」 “九龍城砦”を舞台にした大ヒット作で脚光「日本人アクション監督」が語る香港映画の過去・現在・未来
今さら「継承」なんて言うなよ
「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」では、旧世代と次世代の登場人物たちがさまざまな形で絡みあい、時に戦いながら「未来」へ進んでいく過程が描かれる。出演する俳優陣も、すでに大スターである面々と本作で本格的なブレイクを果たした次世代だ。この構図から、本作は「継承」も大きなテーマにだといわれているが、谷垣氏は「あまり好きな言葉ではない」と漏らす。
「香港でも最近、『継承』って言う人がすごく多いんですけど、僕はこの言葉は滅びゆく伝統芸能に使われる言葉だと思っていて。(香港映画が全盛期だった)80年代の香港映画人は、今そこにあるものを面白くすることしか考えてなかったと思うんですよね。それが最近になってやたらと使われだした。映画ファンの人とかが言う分にはいいと思うんだけど、あなたたちがバリバリの頃は、継承とか次の世代にバトンを渡すとかまで全然考えてなかったじゃないかよと(笑)。自分が天下獲ることしか考えてなかったじゃんって」
「だからこそ当時の香港映画は理屈抜きのパワーがあって面白かったのに、今さらそんなことを言うとは」という、愛情ゆえの感想でもある。往年の香港映画ファンには納得できる部分もあるだろう。人を驚かせ、笑わせ、熱狂させるパワーは、天下を獲りたい映画人たちの勢いとリンクしていた。
理詰めで考えたら面白くならない
「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」には、この勢いの部分も残されているようだ。たとえば、走行中のバス車内で繰り広げられる激しいアクションシーン。この撮影中にある“問題”が発生した。
「『戦ってる間にバス停で止まらないとおかしくないか』と誰かが言い出したんですよ。『じゃあトラックにするか』となったんですが、暗いトラックの中で戦っても面白くもなんともないじゃないですか(笑)。そこでチェン監督が『いや、バスでいこう』と。全部理詰めで考えたら面白くならないですよね」
当たり前を無視する勢いと、誰もが心を揺さぶられる情と絆、そして「なにが起こってもおかしくない」九龍城砦。本作で浮かび上がるのは、来るものを拒まず、曖昧さを許容し、清濁併せ呑む「香港」の姿でもある。本作で最も香港の観客を魅了したのは、「香港とはこれなのだ」というアイデンティティのようなものだったのだろう。
「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」新宿バルト9ほか全国劇場にて公開中 配給:クロックワークス
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すべてがハイクオリティの本作。第1回【香港で空前の大ヒット「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」は「絶対面白くなると思った」 アクション監督・谷垣健治氏が明かす“アツすぎる”撮影秘話】では、企画を聞いた谷垣氏が「悪い映画になりようがない」と思った理由や、準備段階でチェン監督から送られた画像などについて語っている。
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