「サモ・ハンは天才。別次元の人」 “九龍城砦”を舞台にした大ヒット作で脚光「日本人アクション監督」が語る香港映画の過去・現在・未来
落ちるたびに起死回生の作品が出てくる
男たちの情と絆、戦いが炸裂するアクション映画という軸からみると、本作はかつての香港映画における“王道”だといえる。それもあってか、本作について「香港映画の復活」を喜ぶ声も多い。そんな香港映画の栄枯盛衰を、谷垣氏は香港へ渡った1993年から間近で見ていた。
「香港は好景気と不景気の波が結構あるんですよ。僕が93年に行った時も、古装片(時代劇)の武侠映画が終わってどうするって時に、『古惑仔』シリーズ(邦題:欲望の街。裏社会の若者たちを描いた漫画の実写化)があたってみんなチンピラアクションになった。その後にまた景気が悪くなったらハリウッドで『マトリックス』とかがあたり始めて、香港の人材が海外で必要とされるようになった。それも終わったら、急に『インファナル・アフェア』シリーズがヒットした。何かの時に起死回生の作品が出てくるのが香港映画界ですよね」
今後は「構造的には難しい部分がある」と冷静に語る。
「なぜかと言うと、スタントマンが育っていないから。『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』も“香港アクション”と言われつつも、アクションチームは日本と中国です。だから、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』1本の成功では足りなくて、こういう映画が1年にあと5、6本ぐらいあればいい。でも僕らが頑張るというより、投資が頑張ると人は集まるから、大事なのはそこだと思います」
世界で育つ「アクションの中華街」
一方で、「香港アクション」という括りとは違う未来も見えると続ける。香港アクションの作り手たちが香港以外の場所でも映画を作ってきたことにより、さまざまな場所で人材が育っているからだ。谷垣氏はこれを「中華街」にたとえる。
「今のアメリカだって、サモ・ハンの『マーシャル・ロー』やジャッキーの『ラッシュアワー』を経験したスタントマンが大勢いたおかげで、アメリカのスタントのジャンルの中において、「格闘アクション」というものの占める割合が大きくなってきました。『ジョン・ウィック』の監督も『マトリックス』でキアヌ・リーブスのスタントを経験して、香港スタントチームのスタイルを真似て『87Eleven』(アクションに特化した制作スタジオ)を作った。今のアメリカで格闘アクションやボディアクションが流行っているのは、ある意味で中華街的なものですよ。僕にしても、自分の作るアクションが香港アクションだとは全く思わないけども、ある意味では香港アクションの血筋だから、やっぱり中華街ですよね」
他にもタイやインドネシアなどアジア各地でも、香港アクション映画のリズムで作られたアクション映画がヒットしている。
「香港映画全体の中核がどうなるかは僕にもわからない。でも、香港アクション映画の変異種は確実に増えている。各国で『香港アクションの中華街』みたいなものを作っていくという意味では、香港アクションが別の場所に根付くのも、僕は悪いことではないのかなと思っています」
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