「陰謀の類い」が選挙結果を左右する時代に SNS選挙の台頭を許したマスコミの責任は 「無味乾燥な報道をしてしまった」

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陰謀論の類い

「斎藤さんは口数が少ない人なので、“喋れない理由が何かあるのではないか”と思われていた。そこに立花氏が元県民局長のパソコンの中身とされるものを公開したことで、疑問が解消されていき、元県民局長には悪者というイメージがつき始めました。そして大手メディアは、元県民局長が斎藤さんのせいで亡くなった、とウソをついていたということになりました」(井上氏)

 しかし「斎藤氏は既得権益者の犠牲者」「メディアはウソをついていた」といった言説の真偽は不明だ。つまり陰謀論の類いと言ってよかろう。

「選挙の投票日、斎藤さんの事務所の前にはたくさんの人が集まりましたが、家族連れで来る人が多かったそうです。おそらく家族の中でSNS上の“真実”が共有されたのでしょう。これは陰謀論を信じるQアノンと呼ばれる人々や、地球平面説を唱える人たちと似ています」(同)

「長期的には全員が損をする」

 元県民局長は県の公益通報窓口にも内部通報していたが、斎藤氏は公益通報の調査結果を待たずに彼を停職3カ月の懲戒処分とする判断を下した。彼はその2カ月後に自殺した。こうした「揺るがない事実」は、暴走するSNSの中で広がる陰謀論によってかき消されてしまった。代わりに熱狂的空気が覆い、後には斎藤氏の再選という信じ難い結果が残された。

 評論家の宇野常寛氏はこう語る。

「まず『隠されていた真実』という発想が危険です。『隠されていた』=まだ『検証待ち』の情報だということですから。そして、戦略的に陰謀論を流布する情報戦が行われると、長期的にはおそらく左も右も、立場にかかわらず全員が損をすることになります。政策論争や長期的な視点に基づいた選択が有権者にとって難しくなってしまいますから」

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