「“推し活”の一員としてエンタメに参加」 兵庫県知事選でなぜ「政治に興味がない人」までが熱狂したのか

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「“推し活”の一員として物語に参加」

 これまで候補者のストーリーを提示できるのは新聞・テレビなどのマスコミだけだったが、時代は変わり、SNSもその役割を果たすようになった。

「これまでメディアが独占的に善悪を決めてきましたが、兵庫県知事選では、既得権を守ろうとする権力者たちによって斎藤氏は知事の座から引きずり下ろされたのだというSNSのストーリーが急速に広がりました。陰謀によってすべてを失い、どん底に堕ちた主人公(ヒーロー)をみんなの力でもう一度輝かせるというのは、マンガやアニメで繰り返されてきた定番のストーリーで、これほど夢中になれるものはない。“推し活”の一員になることで、自分もこの魅力的な物語に参加できるのです」(同)

 斎藤氏が再選を果たした際、「サイトー! サイトー!」というコールが鳴りやまぬ中、支援者らが涙を流しながら抱き合う姿が見られた。

「サッカーで試合に勝つと熱狂的なサポーターたちが喜んで涙しますが、まさにこれと同じです。兵庫県知事選は支援者にとって、日常では体験できない素晴らしいエンターテインメントだったのです」

 として、橘氏はこう付け加える。

「アメリカの政治学者イリヤ・ソミンは、有権者は候補者について何も知らないまま義務的に投票するか、スポーツファンのように、選挙をエンターテインメントと見なし、自らのアイデンティティーの証明として『部族的・党派的』に投票するかのどちらかだと指摘しています。トランプ現象が典型ですが、日本でも選挙を“推し活”化できればどれほどの力を発揮するかを証明したのが、斎藤知事だったわけです」

兵庫県知事選の特異性

 斎藤氏のストーリーが有権者にどれほど急速に受け入れられたかは数字にも表れている。

「JX通信社では神戸新聞と共同で兵庫県内の有権者を対象に斎藤県政を評価するかどうかの世論調査を行ったのですが、この結果を見ると今回の兵庫県知事選がいかに特異だったかが分かります」

 先の米重氏はそう語る。

「斎藤さんの失職直後、10月半ばの段階では斎藤県政をポジティブに評価する人は2割程度でした。それが選挙期間中盤に4割を超し、投開票日の出口調査では7割以上が評価しているという状態に至った。わずか1カ月の間に情勢が一気にひっくり返ったのです」

 同調査では有権者がどんなメディアを利用して情報収集に当たったかも調べているが、

「2位になった稲村和美氏の支持者層は新聞・テレビの利用者が多いのに対して、斎藤知事支持者は半分ほどがYouTubeで情報収集を行っていました。斎藤知事再選の背景には、情報収集のためのツールが新聞・テレビからYouTubeなどのネットへシフトしてきていることがあると見るのが自然だと思います」(同)

 後編【「陰謀の類い」が選挙結果を左右する時代に SNS選挙の台頭を許したマスコミの責任は 「無味乾燥な報道をしてしまった」】では、SNSの暴走を許したマスコミの責任について報じる。

週刊新潮 2025年1月16日号掲載

特集「選挙を破壊する『暴走SNS』の研究」より

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