「ビザ緩和」で今年は1000万人が来日か…中国「団体旅行客」の滞在期間「倍増」で、より深刻化する“観光公害”
500万人の若者が
しかし、「政治的な譲歩」とはいえ、富裕層が来日することは、日本にとってはプラスなのは間違いない。日本政府観光局(JNTO)では、「旅行先における消費額が100万円以上/人回」の旅行者をインバウンドにおける富裕層と定義しており、富裕層が来日すれば、インバウンド消費が増加し、その分、日本経済が潤うからだ。
訪日中国人数は新型コロナウイルスの感染拡大前の2019年までは、6年連続で増加し、2019年には959万4394人と1000万人に肉薄して最多を記録したが、コロナ後の2023年は242万5000人と4分の1に激減した。ところが、昨年10月には58万2800人で前年同月比127.3%増、2024年1月から10月までの累計は583万500人で、前年同期比214.4%増と倍増しており、今年は10年間有効マルチビザ発給などの好材料もあって、史上最高の1000万人超えの期待もかかっているといえそうだ。
日本政府観光局によると、訪日中国人観光客は年齢層が幅広いものの、特に20代と30代が訪日客の約50%を占めている。訪日中国人観光客の半分がこれらの若者層だとすると、少なくとも500万人の若者が日本に押し寄せることになる。
中国の観光関連サイト「Qunar Index」によると、岩屋毅外相が北京で10年間有効マルチビザなどについて発表した昨年12月25日には、中国内の「東京と大阪への国際便」の検索指数は前週に比べて20%増加し、この2都市はアウトバウンドの目的地でそれぞれ2位と3位にランクインした。また、函館、小樽、伊豆など、日本の地方都市についても、ホテルの検索数は前月比で2倍以上増加している。一方、春節(旧正月=今年1月28日から2月4日)の事前予約数では、日本のホテルがタイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールと並んで1位となり、東京、大阪、名古屋、札幌、京都、神戸、福岡などの日本の都市が人気の目的地となっているなど、まだ新たなビザ緩和措置が始まっていないのにもかかわらず、日本旅行に関心が集まっている。
オーバーツーリズム問題の深刻化
これらのネット検索は主に若者層が主体だけに、今年春から団体観光客の滞在日程が30日と倍増することから、20~30代の若者層も場合によって、それ以上に増加することも予想される。このところマスコミを騒がしている海外旅行客のオーバーツーリズム問題も一層深刻化することは容易に想像できよう。
すでに、昨年には河口湖駅前の富士山の見えるコンビニエンスストア前で繰り返される危険な横断などが原因で、行政が黒いメッシュ状のカバーを作成したり、鎌倉市の人気漫画の舞台になった踏切で中国や台湾などの外国人観光客が撮影のために押し寄せ、交通の障害になったりするなど、今後もこれらの騒動が繰り返される可能性がある。
筆者も昨年夏、河口湖駅前のコンビニ前で多数の外国人客が群がって写真撮影している現場を通りかかったが、駅前の駐車場には中国人の団体観光客を満載した観光バスが多く停車しており、乗り遅れた中国人青年男女がバスを追いかけるという場面も目撃した。彼らは交通規則を意識せず、急に車道に飛び出すこともあるので危なっかしくて、他人ごとながら冷や冷やしながら見ていたものだ。
日本人は予約が取れない
今年はこれらの中国人の若者層に加え、富裕層向けの10年間有効マルチビザの発給開始で、これまで以上に多くの中高年の富裕層が観光のために来日することになる。富裕層向け10年間有効マルチビザの発給数が増えれば、年齢層も高くなり、中国人訪日客の日本観光の形態も変わり、消費額も増加することが予想される。
富裕層には10年間有効ビザが発給され、彼らが繰り返し日本を訪問することで、観光地などの高級リゾートホテル、旅館を常時予約したり、場合によってはセカンドハウス(別荘)を所有して定期的に訪日したりすることも考えられる。そうなると、日本人観光客は予約が取れないなど、締め出されることも考えられる。
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