「ビザ緩和」で今年は1000万人が来日か…中国「団体旅行客」の滞在期間「倍増」で、より深刻化する“観光公害”

国際 中国

  • ブックマーク

 外務省は「今年春」から中国人富裕層向けに10年間有効マルチビザなどを新たに発給するほか、団体観光客のビザも滞在期間を30日間に倍増するなどの措置を実施する。これにより、オーバーツーリズム問題が一層深刻化し、富裕層による日本の観光地の高級リゾート宿泊施設の「セカンドハウス化」が懸念されている。【相馬勝/ジャーナリスト】

 ***

 岩屋毅外務大臣は北京訪問中の昨年12月25日、従来は有効期間が3年か5年だった中国人富裕層向けの観光マルチビザ(数次有効ビザ)を一律で10年間に延長することや、団体観光客用の単発ビザの有効期間を15日間から30日間にすることを明らかにした。さらに、65歳以上の場合、ビザ申請では在職証明書の提出が不要になるとの措置を加えた。

 中国政府のシンクタンク、中国社会科学院観光研究センターの李進軍研究員は中国メディアに対し、「日本が現時点で中国に対するビザ政策を緩和したのは、中国がさきに、日本に対するビザなし政策を再実施したことに対応したものだ。この措置は、一部の中国人観光客の日本旅行への利便性を向上させるだけでなく、両国間の観光交流を促進する上で一定のプラスの役割を果たしている」と指摘している。

習近平の意向

 李研究員が語るように、今回の外務省の訪日中国人向け観光ビザ緩和は、中国政府が昨年11月下旬、日本人向けの短期ビザ免除の再開を決めたことへの「返礼」的な意味合いが強いようだ。日本側はコロナ禍後、中国政府に一貫して短期ビザ免除の再開を要求してきた。だが、中国側は難色を示し、先送りにしてきた。ところが、中国側は一転して、従来の短期ビザ免除の再開を決定した。日本訪中客の中国滞在期間も従来の15日間から30日間に延長した。

 この背景にはトランプ次期大統領が中国製品への関税引き上げを公言しており、対中圧力を強めることが予想されているからだ。習政権としては、米国以外の国々との関係を安定させ、景気低迷が続くなか、経済への打撃を最小限にとどめたい考えであり、日中関係改善もそうした戦略の一環と位置付けて、懸案の解決を急いだもようだ。

 このビザ問題の決定以前の昨年9月20日、当時の岸田文雄首相は記者団に対して、中国が自国の食品に関わる安全基準に合致した日本産水産物の輸入を再開させることで日中両国が合意したことを明らかにしている。

 つまり、習近平政権としては、日本産水産物の輸入再開の合意に続き、ビザ問題という日中間の懸案解決を一歩進めた形だ。背景には日本との関係を安定させ、予想される米中関係の悪化に備える狙いがあるのは間違いないところだ。

 外務省関係者は筆者に対して、「ビザ問題は習近平主席自らが決定しており、担当部局の中国外務省の頭越しに決定された可能性が高い」と指摘している。それまで頑なに中国側が貫いてきた原則を覆すことができるのは、「習近平国家主席レベルでの決断があったとしか考えられない」というのだ。トップダウンの決断を受けて、中国外務省当局は結果的に、はしごを外され、メンツをつぶされた形となった。

 一方の日本政府としても、習主席ら最高指導部の意向を尊重して、中国人富裕層への10年間有効マルチビザ発給などの観光ビザ緩和を打ち出し、中国側に最大限の譲歩をしたといえそうだ。

次ページ:500万人の若者が

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。