イオン?それともドンキになる?「西友」の行く末が、単なる売却話以上の意味をもつワケ

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西友の看板は残らない?

 西友を買う立場で考えれば、去年の4月の時点で、北海道の9店舗はイオンに売却されており、九州の69店舗も、中四国で食品スーパーやモールを展開するイズミに売却されている。本州に240店舗の展開となった西友の経営は効率化されているといえ、“買い時”なのだろう。

 買収するメリットは2つあると考えられる。一番の魅力は、何といっても首都圏を中心とする駅前の一等地に店舗を構えていることだ。また、新たに240の店舗網を手に入れる事によって、仕入れ力が強化され、メーカーとの交渉力やプライベートブランドの購買交渉力も上げることができる。こうしたメリットを考えれば、基本は西友の看板は残さない買収方針になるのが普通だろう。イオン傘下となったのちの「ダイエー」、ドンキグループ傘下となったのちの「長崎屋」のように、ブランド縮小は余儀なくされるはずだ。

「総合スーパー」の役割を終わらせた存在

 西友がどこに売却されようと、今後は全国に展開する「総合スーパー」はイオンのみとなりそうだ。昭和後期に日本の小売業を席巻したこの業態がほぼ終わりを迎えるという、単なる売却話以上の意味をもつことになる。

 西友のようなGMS(General Merchandise Store)といわれる総合スーパーは、平成に台頭したネット通販や、ユニクロやニトリといった特定のジャンルに特化した「カテゴリーキラー」に小売りの主役の座を奪われ、役割を終えつつある。昨今は、大手の小売りがアメリカの投資ファンドによって転売益目的で株式を買われ、最終的に日本の大手小売りへ売却されることも多い。西友もGMSの最期の砦ともいえるイオン、ユニーやアピタを抱えるドン・キホーテグループが買収に名乗りをあげているわけだが、人口減の日本マーケットの小売りの寡占化競争が本格化している事を如実に表している。

 西友の吉祥寺店内には、2022年11月にドン・キホーテ西友吉祥寺店がオープンしていたし、同じく調布店内にもドンキの調布駅前店が入っている。これらを踏まえると、今回の売却提案の前から、イオンとドンキが西友にアプローチしていたといえる(楽天もネットスーパーへの期待から、2021年3月から2023年5月まで西友の株を20%保有していたが、ケータイ事業の不振もあり早々と手放した経緯がある)。

失われる小売チェーンの多様性

 またセブン&アイのヨーカドーなどの中間持株会社「ヨーク・ホールディングス」も、この春に米投資ファンドKKRや日本産業パートナーズへの株式売却を目指している。投資会社が事業を継続する事は考えにくいので、西友と同じように、イオンやドンキが買収を狙う形になって行くのではないだろうか。

 セブン&アイのそごう西武では、投資ファンドのフォートレスがヨドバシカメラと連動し、半分以上がヨドバシカメラになるとされる西武池袋のリニューアル計画を進めている。外資ファンドによる小売りの再編という流れは、残念ながらしばらく続きそうだ。人口減の日本ではやむを得ないが、顧客にとっては、小売チェーンの多様性が失われる事によって、買い物の楽しさはますます無くなっていきそうだ。

 筆者はローソンの出身だが、バイヤーとしての商品開発やマーチャンダイジングのイロハは、親会社であるダイエーから出向した上司に教わり、今がある。西友のPBから始まった無印良品は、世界で通用する小売業となっている。総合スーパーという店舗は無くなっていくも、その思想は令和にも引き継がれ、ユーザーを楽しませていく事を期待したい。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務などの活動の傍ら、全国で講演活動を行っている(依頼はやらまいかマーケティングまで)。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。

デイリー新潮編集部

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