“見栄”の民主主義はもろかった… 現職大統領の逮捕が招く「韓国」左右対立の激化

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『三四郎』と韓国

――韓国にも冷静な人がいたのですね。

鈴置:20世紀の韓国には尊敬できる人があちこちにいました。透き通った眼で世の中を見定め、飄々とした表現で解説してくれるのです。

 国は貧しく、人権状況も決してよろしくはありませんでしたが、こうした俳味のある知識人から話を聞くたびに「韓国を専門領域に選んでよかったな」と思ったものです。私だけではなく、その頃、韓国を研究する日本人に共通する思いでした。

 21世紀の韓国にはこうした人はあまり見当たらなくなりました。恐ろしく狭い視野で――自分の損得だけで世界を論じる声ばかりが聞こえてきます。日本も他人の悪口は言えませんが。そんな韓国人は自らの民主主義の弱点などとても眼に入らないのです。

――かなり悲観的ですね。

鈴置:是非、読んで欲しいのが『韓国民主政治の自壊』の「おわりに」です。夏目漱石の『三四郎』(1908年刊行)の引用から始まるので驚く人も多いのですが、私には日清・日露戦争で勝って調子に乗った日本が今の韓国と重なって見えるのです。

『三四郎』の冒頭で、漱石の分身たる「かの男」が日本に関し「亡びるね」と断じます。子供の頃に読んで、なぜ日本が亡びることになるのか首を傾げた人も多いでしょう。

 歴史を学んだ後に読み返してようやく、増長し世界の趨勢を見失っていく日本に漱石が危機感を抱いていたのだと気づきます。

 韓国の民主主義は明らかに崩れ始めた。米中の対立激化の中、外交の針路も怪しくなってくる。1930年代――明治維新で近代国家を作って70年が経った頃の日本と実に似ているのです。

 韓国も建国70年を過ぎました。苦難からはい上がって成功した国が、ある種の限界を迎える歳なのかもしれません。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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