“見栄”の民主主義はもろかった… 現職大統領の逮捕が招く「韓国」左右対立の激化

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 韓国観察者の鈴置高史氏は韓国人が本当に民主主義を欲しているのか疑う。「先進国ブランドが欲しいだけだ」と言うのだ。

大統領の出頭を許さず

――韓国の大統領が逮捕されました。現職での逮捕は史上初とか。

鈴置:1月15日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が公捜処(高位公職者犯罪捜査処)によって逮捕されました。12月3日の戒厳宣布など一連の行動が内乱首謀に当たるとの容疑です。官邸に10日以上も籠城した挙句の逮捕でした。

 初回の逮捕出動は1月3日。この時は大統領警護処――身辺警護の職員が体を張って逮捕を阻止しましたが、15日は3200人もの警察官が動員され、ついに「お縄」になったのです。

 大統領側は最後の段階で「衝突を避けるため出頭するから、逮捕・連行は止めてくれ」と泣きつきました。朝鮮日報も社説「公捜処は捜査が目的か逮捕が目的か」(1月14日、韓国語版)で「流血の惨事を避けるために大統領の出頭を待つ手もある」と促しましたが、公捜処は「逮捕状の執行が目標である」と宣言、許しませんでした。

――なぜ、出頭を許さなかったのでしょうか?衝突のリスクを減らせたのに。

鈴置:尹錫悦大統領を「逮捕されるほど悪い奴」と貶めるためです。仮に衝突しても、国民の非難の相当部分は「逮捕に最後まで抵抗した」傲慢不遜な大統領に向いたでしょう。

弾劾反対が32%に

――なぜ、貶めるのでしょうか?

鈴置:内乱罪の捜査と並行して進んでいる弾劾を確実なものにするためと思われます。韓国ギャラップの1月第2週の世論調査(調査期間1月7―9日)によると、弾劾に賛成する人が64%なのに対し、反対派が32%もいるのです。

 昨年12月14日の弾劾訴追案の可決直前の調査と比べ、反対派は11%ポイント増えました。戒厳令には怒ったものの「弾劾までしてしまうと次は左派が政権を握る」と危機感を抱いた人がそれだけいるということです。

 公捜処と、その後ろにいる左派は逮捕劇を見せつけることにより「尹錫悦は弾劾すべき悪い奴」とのイメージを国民に刷り込む必要がありました。

 左派系紙ハンギョレの社説「『内乱首魁』尹錫悦逮捕、『憲政じゅうりん断罪』への真の一歩」(1月16日、日本語版)がその象徴です。「悪い奴は逮捕したぞ。さあ、次は弾劾だ」と国民に呼びかけたのです。

 ある韓国人は「水に落ちた犬を韓国人は寄ってたかって叩く。だから、敵は水に落として――逮捕して、世論裁判にかけるのが常道」と説明します。

 日本に住んだこともあるこの人によると「日本人は敗者に優しい」のだそうです。確かに韓国で「敗者の美学」という言葉を聞いたことがありません。敗者は徹底的に蔑まれる存在なのです。

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