「紙の選挙ポスターを街中に貼る政治家がSDGsとか言うのだから、笑ってしまう」 企業献金に裏金、大阪万博も…日本社会にいまだ残る「昭和」(古市憲寿)
2025年は昭和100年に当たる。流行には乗っておきたいタイプなので、僕も『昭和100年』という本を出版した。テーマは「昭和が終わらない」だ。
【写真35枚】大阪万博の会場は今どうなってる? 「半年間のお祭りのためだけに税金を使うなんて馬鹿げている」と古市氏
もちろん実際の昭和は1989年に終わっている。確かに時代は変わった。1989年といえばバブル景気の最中。あの頃、企業の時価総額世界ランキングでは、上位50社中、32社が日本企業だった。それが近年ではトヨタ自動車1社が掲載されるのみである。
ドラマ「不適切にもほどがある!」でも描かれたように、人々の価値観も変わった。性差別や暴力には厳しい目が向けられるようになった。東京オリンピック組織委員会の会長だった森喜朗さんは、「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」という発言がきっかけで、辞任に追い込まれている。昭和時代ではあり得なかっただろう。まさに「昭和は遠くなりにけり」と言いたいところだが、一方ではまだまだこの日本社会では「昭和」が生き残っている。
例えばメディアをにぎわし続ける政治とカネの問題。昭和時代の金権政治と比べれば規模は小さいものの、企業献金や裏金の全廃は難しいのだろう。そもそもいまだに政治の世界には「昭和」がつきまとう。選挙の時、投票を呼びかける手紙を配り、紙のポスターを街中に貼るなんて、あまりにもエコから遠い。そんな仕組みを続けてきた政治家がSDGsとか言うのだから笑ってしまう。
今年、昭和100年には大阪・関西万博も開催される。全てがスマホで見られる時代に、物理的な空間を使って万博をするというのも昭和的である。本にも書いたが、実は近年の万博やオリンピックはお祭りそのものが目的ではない。都市を再開発するための起爆剤としてメガイベントを使うのだ。2012年のロンドンオリンピックは、街が混雑したりイベントとしては不評の声もあったが、再開発という意味では(少なくとも商業的には)成功した。
だが大阪万博関係者はそのことを知らなかったのか、いまだに「万博後」のビジョンが見えてこない。本来は「万博後」から逆算して万博の計画を練るべきなのだ。悪名高くなってしまったリングも、維持するのか壊すのかも決まっていないようだ。半年間のお祭りのためだけに税金を使うなんて本当に馬鹿げていると思う。
このように日本にはいまだに昭和の亡霊が、いたるところに残る。もちろん昭和が全て悪いわけではない。残すべき文化もあるだろう。
そういえばこのコラム(「誰の味方でもありません」)も「週刊新潮」で連載されている。紙で読んでいる人も多いと思う。その意味で、読者は立派な昭和文化の継承者といえる。勝手に昭和無形文化財の保持者として表彰させていただきます。『昭和100年』も紙で出版されている。書店に行けば手に取って買うこともできる。完全な手前みそだがこれは残してもいい昭和の文化だ。というわけで今年も「週刊新潮」と『昭和100年』をよろしくお願いします。