ウクライナに早期停戦以外の選択肢はない…トランプ政権発足前に流布される「ロシア経済衰退論」に“継戦を望む勢力”の思惑

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ロシア政府の懐事情は依然として安泰

 このような状況にかんがみ、「ロシア経済は1980年初頭のソビエトのように停滞している」との主張が出ているが、はたしてそうだろうか。

 長引く戦争が経済に打撃を与えていることは間違いないが、ロシア政府の懐事情は依然として安泰だ。ロシア財政は今年、赤字から脱却することが見込まれ、ロシア政府発行の国債残高の対GDP比も20%程度と低水準にとどまっている。財政赤字がうなぎ上りの米国とは大違いだ。

 預金金利が引き上げられたことで、ロシア国内のルーブル建て預金は2022年1月から昨年9月の間に約54%も伸びており、ロシア政府が国債を発行する余地も十分にある。

継戦を望む勢力の根拠なき楽観論

 以上からわかるのは、ロシア政府が戦争で早晩破綻することはないということだ。経済の安定は来年まで続くというのが正しい現状分析だろう。

 にもかかわらず、ロシア経済衰退論が流布される背景には別の思惑があるのかもしれない。現段階での停戦はロシアにとって圧倒的に有利であるため、継戦を望む勢力が「ロシア経済は既に弱体化しているから、戦争を続ければウクライナはいずれ勝利できる」という根拠なき楽観論を展開しているのではないかと勘ぐりたくもなる。

 だが、戦争を継続したとしてもウクライナが有利になる確率はゼロに近い。残念ながら、ウクライナにとっても早期停戦以外の選択肢はないのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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