デビュー作シリーズでミリオン達成「成瀬あかり」が滋賀で一大ブームに
2023年に刊行された、作家・宮島未奈氏のデビュー作『成瀬は天下を取りにいく』は、本屋大賞をはじめとする数々の文学賞&アワードを総なめにした作品である。
その続編『成瀬は信じた道をいく』も、「ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2024」など、各種ランキングでトップとなり、売れ行き好調。2作累計で100万部突破を果たした。
むろん全国的な人気を得ている作品だが、格別な盛り上がりを見せているのが「地元」である滋賀県大津市だ。
この場合の「地元」には二つの意味がある。著者、宮島氏が滋賀県大津市在住であるということ、そして主人公の成瀬あかりの生まれ育った土地であるということだ。作中には、「西武大津店」「膳所(ぜぜ)高校」などなど、大津市内のさまざまな場所や施設が実名で登場する。
人気を受け、昨年夏から大津市内では「成瀬と天下を取りにいくスタンプラリー」を開催している。作品ゆかりの地、13カ所を回ると特製のしおりがプレゼントされるという趣向である。
「ようこそ! 成瀬の住むまち、びわ湖大津へ!」という大看板が掲げられている「JR膳所駅」は当然として、登場人物が愛したパン屋「よりみちぱん」などに立ち寄りながら大津市内を巡るのは、ファンにとっては堪らない体験だろう。閉店した「西武大津店」に関しては、跡地に建ったマンションがスタンプのスポットとなっている。
実際に聖地巡礼中の60代男性に尋ねると、
「神奈川から来ました。近くのびわ湖大津プリンスホテルに泊まっていて、成瀬がアルバイトしているスーパーのフレンドマートに行き、よりみちぱん、びっくりドンキーにも立ち寄りました。これからミシガン(琵琶湖の観光船)にも乗る予定。琵琶湖を見ながら散歩していると、何だか落ち着きますね。ふと成瀬とすれ違いそうな、そんな気持ちになります」
また昨年末には、宮島氏が滋賀県警の「歳末特別警戒本部長」に任命され、「歳末特別警戒出動式」に出席し、職員を前に訓示をするという一幕も。この日のために宮島氏は作中のセリフなどを元にした「成瀬パトロール五か条」を披露。
「あいさつは防犯の基本だ」
「自主防犯パトロールで犯罪抑止」
「ATMで通話中の人には声かけ」
「万引きは許さない」
「信号を守って守るわたしの未来」
婦警姿の宮島氏と共に参加者全員で唱和したという。
成瀬をキャラクターとして用いた交通安全ポスターも作成されている。
こうしたことから、京都新聞が選んだ2024年の「滋賀県の十大ニュース」では、7位に「『成瀬』が本屋大賞 “聖地”に脚光」が選ばれたほどである。ちなみに同紙によれば、新任の大津地裁・家裁所長も赴任早々“聖地”巡りをしたのだという。
盛り上がりは今年も続いている。「びわ湖マラソン2025」のメインビジュアルとして成瀬が起用され、記念Tシャツも作成。
ミリオン達成については、“将来の滋賀県知事”との呼び声高い西川貴教さんから「滋賀県の総人口140万人! ゆえに目指せ、140万部!」という激励コメントも寄せられたそうだ。年内には第3作も刊行予定というので、シリーズでの「滋賀県総人口超え」も現実味を帯びてきているようである。