「吉原をおしゃれスポットに」 「べらぼう」蔦屋重三郎はスーパービジネスマンだった! 現代でも役立つ仕事術に迫る
NHK大河ドラマの次なる主役は蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)。そう、歌麿や写楽をプロモートしたほか、大当たりさせた“ライトノベル”は数知れず、時に権力も揶揄して世を沸かせた「江戸の反骨メディア王」である。手腕と才気で時代を画したその生涯を、作家の増田晶文氏がたどる。
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戯作や浮世絵で江戸をひっくり返した大物出版人が、今また注目を集めている。
その名は蔦重(つたじゅう)こと蔦屋重三郎。彼が運営に心血を注ぎ、江戸で一、二を競った本屋を「耕書堂」という。
蔦重が現代によみがえるきっかけは、令和7年早々にスタートしたNHK大河ドラマ「べらぼう」に抜てきされたから。とはいえ、蔦重の知名度は歴代の主人公でもワースト3に入りかねない。TSUTAYAの企業ドラマと勘違いする御仁もいるらしい。
かようなテイタラクでは、日本の出版文化に一時代を築いた寵児が浮かばれない。誌面を借りてひとくさり、蔦重の人物像と業績を紹介することにしよう。
無名だった写楽を発見
蔦重は寛延3年(1750)1月7日に吉原で生まれ、この町で育った。30代早々に日本橋へ進出、安永から天明、寛政と四半世紀にわたり本屋として八面六臂(ろっぴ)の活躍をしてみせた。
当時の本屋の価値と存在感は現在の書店を想定してもおぼつかない。江戸時代の出版物は唯一無比のマスメディア、本屋が出版社ばかりか新聞社の機能を有し、テレビやラジオに匹敵する影響力を有していた――蔦重を「江戸のメディア王」と呼んでも過言ではない。
彼は黄表紙や狂歌といった新しい文芸ジャンルを確立させている。大田南畝(おおたなんぽ・蜀山人〈しょくさんじん〉、四方赤良〈よものあから〉)、朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)、恋川春町(こいかわはるまち)、山東京伝(さんとうきょうでん)といった戯作者が耕書堂から出版し、東都に名を響かせた。
浮世絵の分野では喜多川歌麿というビッグネームを送り出した。彼の慧眼は東洲斎写楽でも存分に発揮されている。無名だった写楽を発見したのは蔦重に他ならない。そればかりか曲亭馬琴に十返舎一九、葛飾北斎ら気鋭の育成にも力を注いでいる。
大河ドラマで蔦重を演じるのは映画「正体」で報知映画賞主演男優賞を獲得した横浜流星。ちょっとバタくさい面貌の二枚目で、空手有段者、ストイックな役作りに定評がある。
本家の蔦重はというと、いくつかの戯作に彼の姿が残されている。中肉中背でふっくらとした頬、にこやかな表情が印象的だ。
ところが、この温和な風貌に油断してはいけない。蔦重という本屋、どのページでもしっかり、ちゃっかりと原稿をねだり、執筆を渋る戯作者の尻を思いっきりたたいたりしている。
この男、タフなネゴシエーターなのだ。
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