ベネズエラ化する韓国 3年前に鈴置高史氏が「民主主義の崩壊」を予言できたワケ
国の自壊は文在寅時代から
――しかし、鈴置さんは2022年6月に出版した『韓国民主政治の自壊』で、現在の韓国の混乱を予言していました。
鈴置:「予言していた」とは言いすぎです。昨年末の戒厳令には私も驚きました。ただ、この本で「韓国の民主主義がどんどん壊れている」と指摘したのは事実です。
――日本の韓国専門家のほとんどが「成熟した民主主義国」と韓国を持ちあげていました。
鈴置:ファクトをきちんと見れば、「成熟」どころか「後退」あるいは「崩壊」は明らかでした。確信したのは文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2020年です。6月から10月までの4カ月間で、法務部長官が検事総長に対し指揮権を3回も発動したのです。
違法献金事件や汚職事件などの捜査に関し、担当する検察官を変更させたのですが、いずれも左派政治家の救済といった政権防衛が目的でした。
1987年の民主化以降、韓国にも「指揮権は存在するが、容易には発動できない」との不文律が生まれかけていました。それを文在寅政権があっさりと壊したのです。
法律で定められているからと言って、何をやってもいいわけではありません。この場合なら、三権分立を毀損しかねない指揮権の発動は慎重になるのが真の法治国家でしょう。そうした慣例――日本の政界用語で言えば、「憲政の常道」が積み重なって安定した民主国家ができていくのです。
左派だって平気で指揮権発動
ところが「民主化勢力」を自負する左派政権が「常道」をいとも簡単に破った。さらに驚くことに、それが問題化しなかった。当然、憲政の常道は尊重されなくなります。そんな空気の中、2024年12月3日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が戒厳を宣布したのです。
韓国の憲法第77条には戒厳令の規定があります。「大統領は戦時・事変又はこれに準ずる国家非常事態において(中略)公共の安寧秩序を維持する必要があるときには(中略)戒厳を宣布することができる」とあります。
ただ、昨年12月の状況が「公共の安寧秩序を維持する必要があるとき」と見る韓国の法律家はほとんどいません。野党による行政官や検事らへの相次ぐ弾劾により、与野党の対立は激化していましたが、国家非常事態と呼べるかははなはだ疑問でした。尹錫悦大統領も「常道を破った」のです。
尹錫悦大統領は戒厳の宣布には正統性があった、と未だに主張しています。「左派政権だって法律を恣意的に運用したじゃないか」と不満たらたらでしょう。何せ、文在寅政権が4カ月間に3回も指揮権を発動した時の検事総長は尹錫悦氏だったのですから。
2020年10月22日、検事総長だった尹錫悦氏は国会司法委員会で指揮権発動に対し「大半の検察官と法律家は検察庁法違反と考えている」と強い口調で抗議しています。
文在寅政権と対立した尹錫悦氏はその後、いびり出される形で検事総長を辞任しました。そして有力な大統領候補のいなかった保守「国民の力」に担がれ、2022年5月に最高権力を握ったのです。
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