地方にも増える「億ション」はまったく喜べない… 間違いなく「負の遺産」になる理由

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歴史地区を見下ろすタワマンを肯定する記事

 1月4日付朝日新聞夕刊に「億ション 大都市だけじゃない 不動産高騰 地方にも余波 四国や九州、東北でも増加」という記事が載った。販売価格が1億円を超えるマンション「億ション」は、首都圏や京阪神などにかぎられていたが、たとえば、人口減少が続く四国でも億ションが売り出され、しかもよく売れており、いまや億ションは他県にも広がっている、という内容だった。

 驚いたのは、報じられた内容もさることながら、記事のトーンについてだった。その記事は専門家の、「地元の富裕層らを中心に、需要に応じた供給でさえあれば、たとえ億ションでも根付く可能性は十分にある」というコメントで締めくくられていた。つまり、記者は地方に億ションが増える現状を肯定的にとらえていることが明らかで、そのことに驚き呆れたのである。

 呆れた理由は、記事で紹介されたマンションと、その紹介のされ方を説明しなければ伝わらないだろう。そのために、記事の一部を以下に引用する。

《「美景を望み、未来を臨む、タワー邸宅。」/JR高松駅から歩いて約3分の中央通り沿いではいま、こんなキャッチコピーがついた20階建ての分譲マンション「ザ・レジデンス高松 パークフロントタワー」が建設中だ。/開発・販売を手がけるセントラル総合開発(東京)によると、バルコニーからは瀬戸内海の多島美が一望でき、眼下には日本の歴史公園100選に選ばれた史跡高松城跡・玉藻公演が広がる。/億ション住戸は、総戸数54戸のうち20階と19階の4戸。いずれも3LDK120平方メートル超で、価格は1億2900万円から。2月下旬の竣工(しゅんこう)を前に3戸は成約済みという》

 続いて、同社四国支店の担当者の《正面は公園で、将来的にも眺望が塞がれにくい点を評価いただいている》というコメントが載る。

 要は、風光明媚な眺めを独占できるタワーマンションなので「億ション」でも売れる、という話だが、記事には購入者が獲得する「眺望」への批判的なまなざしはない。地方でも「付加価値」がある「億ション」にはビジネスチャンスがある、という肯定的なトーンに終始している。ごく一部の人が眺望を独占することが、その他の公共性以上に優先されていることに対し、検討し考察する姿勢は、残念ながら微塵も見えない。

景観はマンション住民の専有物ではない

《バルコニーからは瀬戸内海の多島美が一望でき、眼下には日本の歴史公園100選に選ばれた史跡高松城跡・玉藻公演が広がる》というが、それは裏を返せば、周囲より高いこのマンションの住人がこうした景観を独占する代償として、ほかの場所からの眺望が奪われるということである。また、「史跡高松城跡」を見下ろせるとはどういうことか。

 高松城は、かつては城の北面が瀬戸内海に接し、海水が石垣を洗う海城だった。本丸、二の丸、三の丸などはよく保存され、城のすぐ前の海は埋められてしまっているが、いまも水堀には海水が引き込まれ、コイの代わりにタイやボラが泳いでいる。2棟の三重櫓(ともに国の重要文化財)などが残るほか、明治時代に取り壊された天守は古写真なども多く残るので、現在、復元計画が進められている。

 ところが、その高松城のすぐ脇に、城内のどこにいても視界に入ってしまうタワマンが建つのである。物件のホームページにも、《上層階からは、この公園(註・高松城址である玉藻公園)のほぼ全景を見渡し》云々と書かれている。しかし、ごくかぎられた人にとっての特別な眺望は、高松城跡という歴史的なエリアを訪れたすべての人から、タワマンがなければ味わえたはずの景観を奪うことによって得られる。

 むろん、施主が法を犯しているわけではない。だが、高松市は、高松城周辺が重要な歴史的エリアであることを百も承知のはずだ。市は天守の復元にも前向きだというのに、なぜその周囲の建築物の高さを規制するなどして、歴史的な景観を守ろうとしないのか。高松城の景観は一部マンションの住人のものではなく、高松市民はもとより日本人、さらには高松を訪れた外国人もふくめ、広く共有されるもののはずである。

 しかし、高松市が不甲斐ないなら、なぜ反権力を標榜してきたはずの朝日新聞は、市の姿勢に疑問を呈さないのか。

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