金正恩の後継者は娘・ジュエで決まりか 「モデルはエリザベス女王」の驚愕証言も
「愛するお子さま」
髪をポニーテールにまとめ、青いリボンで結んでいた。足元はぴかぴかの赤い靴。サプライズデビュー衣装の白、赤、青は国旗の配色に合わせたコーディネートだ。同じ頃、子供らが国旗をあしらったTシャツを着る愛国運動が起きている。後にこれはジュエの発案、偉大な革命活動であったと宣伝しようとしているのかもしれない。
北朝鮮メディアはジュエを「愛するお子さま」「尊敬するお子さま」「尊貴であられるお子さま」などと称し、特別な存在だとにおわせ続けている。金正恩と娘の二人を「嚮導の偉大な方々」と最高指導者などに用いられてきた表現でも呼んだ。さらに娘をクローズアップした写真まで出してきた。だが、ジュエを後継者に内定したとする蓋然性が高いと筆者が判断した決め手は「白馬」である。金日成の時代から白馬こそ、民族の英雄、カリスマ性を宿した偉大なリーダーの象徴とみなされてきたからだ。
最も愛している騎馬
2023年2月8日、平壌の金日成広場であった軍創建75年の軍事パレードにジュエの白馬が登場したのだ。朝鮮中央テレビは、先頭は金正恩が白頭山を軍馬行軍した際に騎乗した伝説の名馬だと解説したのに続き、「愛するお子さまが最も愛している駿馬」との興奮気味なナレーションを流した。写真や映像は報じられていないものの、ジュエは白頭山を白馬で駆けているはずだ。これらの白馬はすべてロシア産、プーチン大統領からも贈られた。
対外秘の写真が平壌郊外の美林乗馬クラブにある。クラブは2013年にオープンした乗馬好きの金正恩肝いりのレジャー施設で、敷地内には革命事績教養室が備わる。くだんの写真は金縁の額に入れられ、うやうやしく室内に飾られている。ラフな半袖シャツで白馬にまたがるのは金正日。その後ろの白馬には緑色のスウェット服の上下にサングラスをかけた少年が乗っている。金正恩だ。平壌の邸宅か、地方の招待所だろう。説明板には〈1990年9月16日〉とある。金正恩6歳のときのスナップ。「帝王学」の一環として父から直々に乗馬を習っていた証拠だ。
「息子の留学を隠蔽するため」との主張も
「ジュエ後継説」に懐疑的意見は根強い。女性である上、露出のタイミングが早いからである。否定派の代表格が韓国最大野党「共に民主党」の朴智元・国会議員だ。情報機関「国家情報院」院長でもあった彼は韓国メディアに「ジュエを引き続き露出させるのは息子の留学を隠蔽(いんぺい)するためとみられる。ジュエは後継者ではなく、金正恩の寵愛を受ける娘とみるのが正しい」などと自説を述べているが、長男がいる根拠、その留学先など一切、明らかにしていない。もし長男が海外留学中なら、各国の情報機関がキャッチしていなければおかしいが、そうした兆候はない。ちなみに国情院は現在、慎重ながらもジュエ後継説に傾きつつある。
ここに興味深い資料がある。金日成から金正日への世襲のとき、平壌の意向を受け、ソウルで地下出版されたとされる金裕民『後継者論』(1984年)だ。手元には在日本朝鮮人総連合会傘下の九月社による復刻版がある。〈後継者の資質と風貌を完璧に備えたすばらしい人物であったならば、男性であれ女性であれ、壮年であれ青年であれ、または革命活動の歴史が長かろうが短かろうが問題にはならないのである。これは首領とその後継者に血縁関係があるかどうかという問題についてもまったく同じだといえる。ゆえに、ある人物が後継者としてのあらゆる資質と風貌を備えている場合には、その人物が首領と血縁関係にあるから後継者に選出できないという論理は成立しえないのである〉。
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