普段より“量が多い”だけじゃない…ごみ収集員が「お正月明けのごみは危険」と口を揃える納得の理由

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袋の空気は抜いておいてほしい

 未分別以外にも、収集員を疲弊させるごみの出し方はたくさんある。

 例えば、家に点在するごみ箱のごみを1つの大きな袋にまとめて集積所に出そうとする家庭は少なくないだろう。だが、これはごみ収集員にとっては大きな負担になる。

「とにかく重い。集積所には、ごみをネットで覆うタイプではなく、ボックスに入っていることがある。そうするとその重いごみを引き上げなければならず、腰をやってしまうことがある」

 こうした重いごみ袋は、時に「凶器」にすらなる。

「重いごみ袋は、太ももあたりに引きつけパッカー車に放り投げるんです。その時、中に入っていた竹串が太ももに突き刺さることがある。袋を破く原因にもなるので、先がとがったものや割りばしなど長いものは、1つにまとめてガムテープで巻いて出すか、牛乳パックなどに入れて出していただけると助かります」

 さらに多いのは「水気」を切らずにごみを出す人たちだ。

「水気を切らずにそのままごみ箱へ入れる人たちがいます。ごみ袋が重くなるのはもちろん、ごみ処理場でごみを燃やす際に火力が弱まってしまうという側面もあります」

 水気とともに抜いてほしいのは「空気」だ。

 空気が抜かれていないごみ袋は、回転板に挟まると「パン」と音を立てて破裂することがある。その瞬間、中に入っている汁やホコリ、汚物が圧力で飛び散り、前に立っている作業員が真正面から浴びることになる。

「処理せずそのまま捨てられた天ぷら油が飛散したりもする」

「夏場の汁は非常に臭いがきつい。飛び散って服や顔にかかると、1日中臭いが取れない」

「子ども用のおむつが入っていたごみ袋が破裂。もろにかぶってしまい、同じパッカー車で回っていた同僚にもニオイや汚れの面で迷惑をかけてしまった」

 さらに、今後引越しのシーズンを迎えると毎度問題になるのが「ビーズクッション」だ。

「袋に捨てられたビーズクッションも回転板に挟まれると、ビーズが飛び散ります。ごみ袋に『ビーズクッションの中身です』などの貼り紙をしていただけるとありがたい」

世間の偏見「ごみを扱ってもゴミにはならない」

 ごみ収集員たちの苦労は肉体的なものだけではない。世間からのあからさまな偏見による「精神的」な部分もかなり大きい。

「子どもに『くっせー!』と言われる」

「ある日お母さんが自分の息子さんに『あんなふうにならないために勉強しないといけないんだよ』と言っていたのを聞いてしまった」

「自分は父親もごみ収集員でした。学生時代、ランチの際に同級生から掛けられた『ごみで食う飯は美味いか』という言葉が今でも忘れられない」

 こうした過酷な労働環境や世間からの偏見に対峙していても、毎度話を聞かせてくれる収集員たちはそれぞれに自身の仕事に実直で、強い誇りを持っていると強く感じる。なかでも「ごみ」を扱う立場だからこそ身も心も清らかでいようと努める人が多い。

「作業服がシミだらけという同業者を今まで見たことがないです」

「どうせごみを積んだら汚れるからほったらかし、ではなく、ごみを積んでいるからこそ自分のクルマはピカピカにしていたい」

「ごみは扱っても、自分自身がごみになってはいけないと思いながら仕事してます」

 筆者が彼らを取材し始めたころ、時間に追われるなかでもごみ集積所のネットをさっと畳んでからその場を立ち去る収集員の姿が今でも印象に残っている。

 こうした彼らの姿を目の当たりにするたび、先の母親が子に放った言葉の暴力性を痛感するのだ。

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

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