里親家庭から推薦で大学も、夜の世界に狂ったのちアイドルに…「地獄みたいな半生」で見つけた救いとは
何かが壊れた
大学に入るとムンさんは夜の世界に飛び込んだ。学校も行かずに週5で働くと、18歳にしてこれまで手に入れたことのない大金がいとも容易く手に入るようになった。厳しい家庭環境にもグレずに耐えていたムンさんの中で、何かが壊れた。
「ちょうどその頃、小学校の同級生がホストになって歌舞伎町で働き始めたんですよ。『遊びにおいで』と言われて、行ったらホストにハマっちゃって。稼いだお金は全部ホストに使ってました。ケースで瓶ビールを持ってきてもらって、それをホストに飲ませたり。狂ってましたね。 ホストも別に好きな人がいたとかではなく、お金が入ってきたから使おうという感じでした。だから楽しいとかはなく、無ですね。お金を使うとホストって喜ぶじゃないですか。だからいいよって」
夜の仕事をして、稼いだお金をホストに費やす。いつしか大学へも足を向けなくなっていた。学生時代の友人も離れていき、周りには夜の仕事をやっている友人ばかりが残った。
「友達の一人はキャバ のNo.1で、その子はホストでシャンパンタワーをやるような子でした。その子と一緒に店 について行って、『私もシャンパン入れるよ』と2本くらい入れて。何もしてないのに、お金だけはめっちゃ入ってくるから感情もないまま使っちゃう。本当にふらふら生きてました。韓国にいる父親から『お金くれ』と連絡があって、何十万円か送ったこともありました」
アイドルになったきっかけ
そんな空虚な日々を過ごしている中、20歳の時、客の一人と新宿ゴールデン街へ一緒に行くことになった。
「そのお客さんは東大の教授で、45歳ぐらいだったかな。文壇バーに連れていってくれて。それが初めてのゴールデン街。そこから通うようになると、音楽をやっている人だったり、作家だったり、芸人さんだったりがいて、自分が昔、サブカル的なものが好きだったことをだんだん思い出してきたんです」
ゴールデン街に居心地の良さを感じたムンさんは、mixiで働く人を募集している店を偶然見つけ、そこから週1でゴールデン街で働きはじめた。結局ゴールデン街では店を変えながら29歳くらいまで10年近く働いた。
ゴールデン街で働いているある日、ムンさんはあるアイドルのオーディションを見つける。
「たまたま『夏の魔物』というアイドルグループのオーディションを見つけたんです。募集を見た時、ストリートミュージシャンの頃のようにもう一度音楽をやりたい、エンタメをやりたいと思ったんです。『夏の魔物』はゴールデン街で働きながらもできそうだったのもあって、応募して、オーディションに合格しました」
こうしてムンさんは、アイドルとして活動を始め、2015年にはメジャーデビューも果たす。
「自分が音楽をやっていた時は父や母への感情を消化するため、自分のために音楽をやってたんですけど、『夏の魔物』は全力エンタメ。どうしたら皆が楽しんでくれるかを考えて常に動いてましたし、そこはすごく勉強になりました。フェスでもBiSHだったり、いろんなアイドルさんと共演させてもらって、ステージに立つ姿勢を勉強できました」
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