開幕が4月に迫った関西万博に「堺屋太一さん」は何を思う? “新作”時代小説で描かれた「前売り券」を完売させる“秘策”

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主人公は未来記憶の持ち主

「そうしたところ、昨年春、2026年の大河ドラマが『豊臣兄弟!』と発表されました。主人公は、秀吉の弟・秀長だという。弊社では、堺屋先生の『豊臣秀長 ある補佐役の生涯』を長く売らせていただいています。そこで、ふたたび『豊臣秀長』増売に力を入れ始めたのですが、その過程で見つけたというか、思い出したのが、この『戦国千手読み 小説・本因坊算砂』でした」(大山さん)

 実は大山さんは、かつて「小説歴史街道」編集部で、この連載の後半を担当していたのである。

 さてさて、ずいぶん遠回りになったが、いったい、どういう小説なのだろうか――。なにぶん、全18章、500頁近い大作である。そこで、あるベテラン編集OB氏に、ゲラで“先手読み”してもらった。すると、開口一番、「いや〜、前代未聞の歴史時代小説でした」と返ってきた。

「戦国時代の僧侶、日海を“狂言回し”にして、織田信長の後半生を描く小説です。日海は実在した囲碁の天才棋士で、のちに〈本因坊算砂〉を名乗り、本因坊家の始祖となります。現在の〈本因坊戦〉のタイトル名の由来となったひとです」

 本因坊算砂は、信長、秀吉、家康と、3人の天下人に重用された。この当時の支配者たちは、多くの文化人を召し抱えている。だが、千利休は切腹、狩野永徳は疲弊して若死にするなど、関係が長続きするものは少なかった。これに対し算砂は、長く3人に重用され、見事に戦国の世をわたり歩いて数え年65歳まで生きた。本作は、そんな算砂が“日海”を名乗っていた若いころ、信長に重用された時代を描いている。

「しかし、書き手が堺屋太一さんですから、尋常な時代小説ではありません。なんといってもユニークなのは、主人公・日海が、“未来記憶”の持ち主だという設定です」(ベテラン編集者)

 そういわれて、連載第1回の、目次の惹句を見ると、こうある――〈超伝奇的手法で描く戦国外伝〉〈「未来」は「過去」に勝てるか――二十世紀の記憶を持った天才棋士が戦国の世に挑む〉。

「第一章からして、度肝を抜かれます。信長が観戦する、囲碁の“御前試合”のシーンです。棋士は、16歳の小坊主・日海と、当世第一の碁打ち・鹿塩利斎 。ここで日海は見事に勝利し、信長のお気に入りになります。実はこのとき日海を見出して推奨したのは、信長のスポンサー、堺商人の今井宗久でした。ご機嫌になった信長は、今井宗久に対して、黄金百枚を献上せよと命じるのです」

「黄金百枚」は、信長への“上納金”としては、実に安い額だった。それほど信長は、日海の囲碁で上機嫌になったのだ。今井宗久はホッとして、日海に礼を述べる。ところが、このあと、16歳の日海は急に大人びた態度になって、驚くべきことを口にするのだ。

〈「それより今井はん。(略)金百枚、お迎えなしに岐阜に届けるのは御苦労なことですな」/(略)今井宗久は絶句した。心の中を見透かされたようで、身体の芯が冷え込んだ。〉

 なぜか。当時、堺から岐阜まで「黄金百枚」を運ぶなど、極めて危険だった。道中に、野武士、敵対勢力、一揆などがあふれていたからだ。今井宗久は〈「日海はん、何ぞ、ええ方法がありますやろか」〉と尋ねる。

「問題は、このあとです。ここで、本作のイメージが決定的になります。日海は、平然と、こういうのです」(ベテラン編集者)

〈「戦車を造ることです」「戦、戦車、そら何でんね」「今から四百年ほどあとには、これが野戦の主役になっております」「また、そんなことを」「私には覚えがあります。四百年後には、戦車と呼ばれるこんな車が何百台も作られ、戦場を駆け回るのです」〉(以上、セリフ部分のみ抜粋)

「つまり日海には、“未来記憶”があるのです。囲碁は、常に先を読む競技です。彼には、盤面だけでなく、歴史までも“先を読む“能力があったという設定です。その盤面が実在の歴史に重なっていく構成が、本作のユニークなところです」

 もちろん、堺屋さんの時代小説だけあって、〈イベント〉〈バイタリティー〉〈イルミネーション〉といった現代カタカナことばも、当たり前のように登場する。しかも、「戦車」までもが、ちゃんと登場するのだ! だがユニークなのは、それだけではなかった。

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