開幕が4月に迫った関西万博に「堺屋太一さん」は何を思う? “新作”時代小説で描かれた「前売り券」を完売させる“秘策”
1994年の連載
「ここから堺屋さんは時代小説に力を入れはじめます。石田三成を主人公に、戦国時代を組織論の観点で描いた『巨いなる企て』(1980年)がベストセラーとなりました。そしてNHK大河ドラマの原作『峠の群像』(1981年)では、赤穂藩お取り潰しを現代の“企業倒産”に見立てて、新しい忠臣蔵物語を生み出すことに成功しています」(経済記者)
以後、堺屋さんは、時代小説作家としても人気を博すようになる。そんな堺屋太一さんの、“新作”時代小説が、この1月31日に発売される。『戦国千手読み 小説・本因坊算砂』(PHP研究所刊)である。タイトルからして、囲碁を題材にした小説らしいことがわかる。
だが、小説の中身に触れる前に――この2月で、堺屋さんは逝去して6年目になる。いまになって“新作”とは、どういうことなのだろうか? まず、そのあたりの事情を、担当編集者、PHP研究所文化事業局長の大山耕介さんにうかがった。
「実は本作は、『小説歴史街道』1994年1月号の創刊号から、18回にわたって連載された作品なんです。もちろん、連載終了後、すぐに単行本化される予定でした」
ところがそのころ堺屋さんは、二度目の大河ドラマ、1996年の「秀吉」で超多忙だった。
「この大河ドラマの原作として、新たに『秀吉 夢を超えた男』をNHK出版から出されることになったのですが、弊社から以前に出ていた堺屋先生の『鬼と人と 信長と光秀』『豊臣秀長 ある補佐役の生涯』の2作も、原作に加えてもらえました。つまり先生の時代小説が、3作も書店にならぶわけです。そこへ、さらに新刊が出たのでは、ビジネス的にうまくいかないだろう――とのご判断で、単行本化は、しばらく待つことになりました」
こういう“販売戦略”も、堺屋さんならではだった。実は堺屋さんは、1983年3月~翌年9月まで「週刊新潮」で、『俯き加減の男の肖像』を連載している。『峠の群像』の続編である。赤穂浪士の討ち入りに参加しなかった、石野七郎次(大河ドラマでは、松平健が演じた)が、商人に“転職”して、元禄以後の“低成長時代“を生き抜く物語だ。
このときも堺屋さんは、「まだ早すぎます。これから、ホンモノの“峠を下りきった時代”が来ますから」といって、すぐに単行本化しなかった。すると、たしかにその後、バブル崩壊(1991~93年頃)、松本サリン事件(1994年)、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件(1995年)などが発生し、日本は“下り坂の時代”に入るのだ。単行本化は、連載から12年後、1995年になってからだった。
そんな堺屋さんだけに、『戦国千手読み 小説・本因坊算砂』の単行本化も、大河ドラマ「秀吉」ブームが落ち着いてから……となったわけだが、その後、「小説歴史街道」は、定期刊行をやめることになり、編集部も解散してしまった。さらに当の堺屋さんが、経済企画庁長官や、内閣特別顧問に就任するなどで、別の意味で超多忙の日々となってしまう。そのため、単行本化の企画もそのままになってしまったのだった。
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