「トクリュウ犯罪」を仕切っているのはヤクザじゃない? 暴力団員が「指示役」でも「使い捨ての実行役」でも逮捕される理由
暴力団関与説の真偽
そうなると目先のカネ欲しさに思わず闇バイトに応募してしまう現役の暴力団員たちが現れても不思議ではない。あえて言うなら、所属している組の意思とは無関係に、ただひたすら今日のカネ欲しさに個人プレーに走ってしまうのだ。
その一方で、トクリュウを束ねてもっとまとまったカネを稼いだ方がいいと考える暴力団員もいる。こういうタイプは、組織図的にはトクリュウの指示役や黒幕としてグループの上層部に居座ることになるわけだが、だからといってこの人物が所属している暴力団が、彼を介してトクリュウを管理・支配していると断定するのは少々早合点ではないだろうか。
そもそもこうした暴力団員は「自分のカネ」が欲しくてトクリュウを束ねているわけだ。同様に自分のカネが欲しくて闇バイトの実行役に応募した組員との違いは、「もっとカネが欲しい」という動機だけでなく、人を束ねる采配力や一時的に裏に潜む狡猾さに秀でていたからだろう。こうして得られた犯罪収益は、自分自身の生活費や遊興費、交際費に充てることが目的であって、所属団体への上納金とは別のカネとなる。
暴力団は組や組員の名前をわざわざ名乗ることで存在を誇示する。一方、闇バイトの指示役や黒幕は常に隠れて活動することが求められる。そのため暴力団の本質と根本的に食い違う。
組に言わないメリット
もし暴力団が組織としてトクリュウの上に君臨すれば、どこかのタイミングで「ここの闇バイトは、あの組が仕切っている」と必ず話が広まってしまう。こうなると指示役は、もはや謎の存在ではなくなってしまう。
匿名・流動型犯罪ではなく古くからある典型的な組織犯罪になってしまう。よって、暴力団員が指示役や黒幕をする際は、最初から「組員であることを隠し、組にも内緒にして、完全に個人の稼ぎ」としてやるのがスムーズだ。それでこそ匿名・流動型犯罪と言える。
人によっては、「暴力団員が所属している組に内緒で勝手にそんなことをしてもいいのか?」と疑問に思うかもしれないが、トクリュウの重要ポイントは「指示役や黒幕の顔が見えないこと」だ。そのため組の規範はさておき、トクリュウで目先のカネを稼ぐには自分が所属している組にも内緒にしてやる方がシゴトの成功率も高くなる。全ては己のカネの為である。
ちなみに組の規範を言えば、ヤクザ渡世の流れを汲む暴力団業界では、窃盗と詐欺は「即破門」としている組が多い。ヤクザ渡世には「ヤクザは乞食以下の存在かも知れないが盗人や詐欺師よりはまだマシだ」という概念が古くからある。これによって窃盗行為と詐欺行為を破門要件とするのが業界では常識化している。
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