「トクリュウ犯罪」を仕切っているのはヤクザじゃない? 暴力団員が「指示役」でも「使い捨ての実行役」でも逮捕される理由

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 SNSや求人サイトなどでメンバーを募って強盗や詐欺などの犯罪を実行する通称「トクリュウ」(匿名・流動型犯罪グループ)。強盗・窃盗・特殊詐欺などに特化した闇バイトと呼ばれる犯罪は年々増加傾向にあるばかりか、凶悪な強盗殺人事件にエスカレートする場合もあり、2024年度の全国公安委員会連絡会議では警視庁長官が取り締まりにおける「最重要課題」と述べたほどだ。(全2回の第1回)【藤原良/作家・ノンフィクションライター】

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 2024年11月には、トクリュウの実行役を勧誘するグループを束ねる指示役として、九州に本部を構える指定暴力団系組幹部の男が逮捕され、トクリュウと暴力団との組織性も注視されている。

 そこで疑問に感じるのは、既にあらゆる組織犯罪に加担していると思われる暴力団が、摘発されれば昔からのシノギの収益路まで失いかねないリスクを冒してまで、素人参加型犯罪と言われるトクリュウに本腰を入れたりするものなのだろうか、という点である。

 2024年4月には、闇バイトに応募して窃盗の実行役となった現役暴力団員たちが逮捕された。暴力団員というとトクリュウグループの更に上部に君臨する黒幕の様なイメージが強いが、この事件で複数の暴力団員たちは闇バイトにわざわざ応募し、20歳代のバイトと同じ立場の実行役を担っていた。

 具体的な逮捕内容は、ポケモンカードの窃盗と建造物侵入容疑である。しかも、この事件で逮捕された現役暴力団員たちが所属していた組は、それぞれ別の代紋を掲げる全く異なる組織だった。

 トクリュウの実行役という立場は、まさしくトカゲの尻尾切りの使い捨て要員でしかない。UDと名づけられた使い捨ての受け子(U)、出し子(D)も実行役の中に含まれる。

貧困に苦しむ組員

 トクリュウの組織ピラミッドで言えば、「指示役」が頂点に立ち、その下にリクルーターと呼ばれる「勧誘役」が存在し、「実行役」は最下層に位置する。運転手や見張り番や下見係も実行役と同じ最下層の位置づけとなっている。

 もしも暴力団員が指示役の更に上位に君臨し、本当のボスとしてトクリュウグループを操るのが定番なのだとしたら、前出のポケモン事件のように現役の暴力団員がわざわざ使い捨てで最下層の実行役をやることに何のメリットがあるのだろうか?

 そう考えると、更に前出の事件のように現役の暴力団組幹部がトクリュウグループの指示役として逮捕された事件が改めて気になってくる。

 トクリュウに関わる暴力団員の定位置は、使い捨ての実行役なのか?

 それとも指示役やそのまた上の黒幕なのだろうか?

 無理矢理に1つの結論を導くより、これらの事件事実を素直に受け止めて「今の時代はとりあえず両方ある」と捉えるのが自然かもしれない。

 周知の通り、現在の暴力団員たちは、暴対法、暴排条例、その他さまざまな法律や規制によって職業選択の自由はおろか衣食住まで厳しく制限され、社会的困窮を余儀なくされている。ここまでくると今日の食事代にも頭を悩ます組員も出始める。それは近年、社会問題化しつつある貧困に苦しむ若者世代の状況よりも残酷かもしれない。

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