「コメ農家の時給は10円」 2025年もコメ不足は続くのか…「減反を続ける政府の責任」

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「あと数年もすれば、ドカンとやめていく」

 それにしても、赤字続きなのに、なぜやっていけるのだろう。

「田んぼは土日だけで、それ以外は外へ働きに出る兼業農家だからです。その収入で農業の赤字を補填し、家族を養っているんです」

 富山県の稲作農家が言った。文字通り、日本の米は農家の汗で作られているのである。そんな農家が、コロナ禍で強烈なボディーブローをくらったのだ。

「国はいま、大規模農家を認定農業者にして補助金などを手厚くしていますが、農家の大半を占める小規模農家は、例えば年間の所得が下がったときの価格保証制度には入れないとか、補助金の対象外なのです。そんな農家の大半が70歳を過ぎていますから、米作りを続ける気力はないでしょう。あと数年もすれば、ドカンとやめていくはずです」(山中さん)

 昨年の米不足程度ならまだ我慢できるが、31年前の米騒動のようになったらどうするのだろう。

「国は、米が足りなければ外国から買えばいいという方針です。作りたい人だけが作って、足らなければ輸入に頼る考えでしょう」

「食料・農業・農村基本法」(24年6月5日公布・施行)にも記されていて、米が不足すれば輸入でまかなうことが常態化する可能性もある。しかし世界で取引されている米は、私たちが食べるジャポニカ米ではなく、大半がタイ米のようなインディカ米だ。31年前の米騒動で輸入したあの外米を食べるということである。

「防衛力と同じくらい重要」

 主食は世界中のどこの国でも増産している。なぜなら、国の安全保障にとって防衛力と同じぐらい重要だからである。ウクライナがロシアと戦い続けられるのも十分な主食があるからだ。その主食を、日本は減産し続けていて、今や米不足になりかねない限界にまで達しているのだ。誰だって予想外の出来事を考えて貯金するのに、この国は、国民が食べる主食の貯金を限界まで減らしているのだ。かなり異常な事態だろう。

 23年の10月末、24年の米は22万トン増の見通しで、今年は深刻な米不足は起きないという農水省の予測が発表された。それを聞いて山中さんはあぜんとしていた。

「本当に22万トン増なら米価は下がります。消費者は喜んでも、農家はどうでしょうか。米は他の作物と違って年に1回しかできないんです。ふたたび暴落したら、みなさん高齢だからいっぺんに農業をやめるでしょうね。そのことが恐ろしいです。せめて主食だけは食べることに困らないように、消費者が納得し、同時に農家の収入も安定する価格を設定して、国がそれを保証すべきではないですか。そうすれば農家も安心して米作りができるんです」

 とはいえ、国は耳を貸さないだろう。財政負担を減らしたい財務省が出費に反対するからだ。消費者は自己防衛のためにも、米の生産者団体などから定期購入をするなど、「わが家の食料安保」をつくる準備をしておくべきかもしれない。

奥野修司(おくのしゅうじ)
ノンフィクション作家。1948年生まれ。『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で講談社ノンフィクション賞と大宅ノンフィクション賞を受賞。『ねじれた絆』『皇太子誕生』『心にナイフをしのばせて』『魂でもいいから、そばにいて 3・11後の霊体験を聞く』など著作多数。

週刊新潮 2025年1月2・9日号掲載

特別読物「2025年も市場の“奪い合い”激化でコメ不足が起きる」より

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