「コメ農家の時給は10円」 2025年もコメ不足は続くのか…「減反を続ける政府の責任」
「作れば作るほど借金が増える」
米の大半を、農協ではなくその他の民間業者が扱っていることは意外に思われるかもしれない。かつて米は食糧管理法(食管法)によって農協に持ち込むしかなかったが、1995年(平成7年)に新食糧法が施行されて、誰でも米を自由に売買できるようになったからである。ただ、米の流通の大半を、その他の民間業者が握ったことで、過不足に過敏に反応するデメリットもある。24年の米不足も、そんな影響があったという。「安定供給でいえば農協や全農です。民間はやはり動きが激しいですからね」と山中さん。
2024年10月、新米の卸売価格(相対取引価格)は、前年より5割以上高い2万3800円だった。31年ぶりの高値だそうだ。いずれ下がるといわれたが、12月でも民間市場では3万4000円前後で取引されていたと山中さんは言う。さすがにこれだけ高いと、国が増産しないといっても、「オレは作るぜ」という農家が増えるのではないか。山中さんは「どうですかねぇ」と首をひねった。
「コロナ禍で米価格は暴落しましたが、特にひどかったのは21年産米です。卸売価格が1万円を割った県(栃木県など)もあり、そのショックで翌年は九州の米も1万円になりました。かつて安倍政権が米価を国際価格に近づけると言ったとき、いよいよ1万円を割るんだと思いましたが、農家は『1万円で誰が米を作るんだ』と憤慨しました。それが現実になったんです。1万円なんて、作れば作るほど借金が増えるだけです」
時給10円の米作り
農水省の「水田作経営の農業経営収支」を見ると、2021年、22年の2年間は、農家の農業所得がなんと1万円、時間給にすれば10円ほどだ。農業所得1万円なんて冗談だと思うかもしれないが、これが稲作農家の現実なのである。この年はコロナ禍だから特別だったかもしれないが、実はコロナ禍以前でも稲作農家の農業所得はわずか18万円ほどに過ぎない。
「時給10円の米作りってなんですかねえ」
米問屋の山中さんはつぶやく。1万円は平均値だから黒字の農家もあるが、大半の小規模農家は赤字だ。それにしても、1年間働いて赤字になる農業ってなんだろう。
農水省によれば、10アール(1反)の田んぼに植えた稲の生産費は年間約12万8000円。これは平均だが、3ヘクタール(3町歩)未満の小規模農家だと14万円弱だ。仮に10アールにつき9俵の米(540キロ)が取れたとする。24年は高値が続いているが、23年の平均1万4000円ほどで考えると、農家の手取りは12万6000円。コストが14万円なら1万4000円の赤字、3町歩なら4万2000円の赤字だ。
農水省の杉中淳経営局長は、農業は農機具代や肥料、農薬などで「売り上げに占めるコストが95%以上は当たり前」と言った。農家を平均すればこの数字でも、小規模農家だと軽く100%を超える。農業を他の産業と同じように扱うべきではないということである。
統計の上では3~5ヘクタール以上で黒字になるが、実際に稲作で生活するには15ヘクタール以上でないと無理だ。
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