「コメ農家の時給は10円」 2025年もコメ不足は続くのか…「減反を続ける政府の責任」

ライフ

  • ブックマーク

危険な状況は変わらず

 新米が出始めても、9月いっぱいは陳列棚に米がないスーパーもあったが、さすがに10月に入ると売り切れ状態は見られなくなった。これで安心した人は少なくないだろうが、今も危険な状況は変わらないと山中さんは言う。

 例えば、農水省が発表する「6月末民間在庫量」である。その年の主食用米の需給状況を知るのによく使われる数字で、同時に翌年の予測も出るが、今回は農水省の推定と民間業者の推定が違うそうだ。

「23年の『6月末民間在庫量』は197万トンでした。24年の在庫量は153万トン、44万トン減です。25年の6月は24年より9万トン多い162万トンというのが10月末時点での政府の予想です。私らにすれば極めて楽観的な数字です。もっと減るだろうと予測しています。おそらく142万トン前後でしょう。理由はいくつかあります。23年の今ごろは、まだ業者も前年の22年産米を抱えていました。ところが、24年はすでに23年産米がなくなって24年産米の早食いが始まっています。米問屋にすれば倉庫に米がなくなるのだけは避けたいから、通常なら1~2カ月分確保する在庫を、あわてて1カ月分ほど増やしているんです」

「新米が出回る時期になっても農協の倉庫はガラガラ」

 それでも政府は、実質的「減反政策」をやめるつもりはない。仮に増産して米価が大幅に下落したとしても、EUのように打撃を受けた農家に「直接支払い」で所得を補助する制度があれば農家も安心だが、農水省は考えていないという。つまり増産で米価が下がれば消費者は喜んでも、農家はつぶれるだけなのだ。

「米の取引は全農や農協が扱っているものと思われがちですが、西日本で農協が扱う米の量は全体の3割(全国平均で5割強)で、残りの7割はその他の民間業者です。ところが、米不足で卸売価格が上がったため、今年の農家は農協に持ち込みません。農協での価格が安いから、高く買ってくれるところに行くんです。おかげで新米が出回る時期になっても、農協の倉庫はガラガラなのです」

 大手商社もこの流れに影響されているという。

「大手商社は主に大手外食チェーン店などに納入していて、全農から買うのが普通です。全農も総合商社ですからね。ところが、24年はその他の民間から買いました。米はたいてい農協経由で全農に集まるものですが、それが集まらないので背に腹は代えられなかったのでしょう。かなり異常な状態です。何事もなければいいですが、余裕のある収穫量ではないので、需要が想定外に増えると来年も米不足になります」

次ページ:「作れば作るほど借金が増える」

前へ 2 3 4 5 6 次へ

[4/6ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。