「八角理事長」が是が非でも「琴櫻と豊昇龍」を「ダブル昇進」させたい“大人の事情” 横綱不在が許されない“34年ぶり大イベント”とは
横綱不在は避けたい
しかし、である。過去には貴乃花のように、優勝→優勝同点の成績で昇進を逃した例もある(貴乃花は後に2場所連続全勝優勝で昇進)一方で、双羽黒のように一度も優勝を果たさずに横綱となり、昇進後も賜杯を抱くことなく引退した例もある。緩めの基準で2人を昇進させ、その後の成績が振るわなければ批判の矢は協会にも向かう。いきおい、幹部の発言は慎重になるものだが、今回はなぜ前のめりとなっているのか。
その理由の一つは、一人横綱・照ノ富士の状態である。
照ノ富士は両膝の変形性関節症に加え、糖尿病の悪化にも悩まされ、昨年は6場所中、皆勤したのは2場所だけ。秋場所と九州場所は2場所連続全休だった。既に33歳、昨年優勝回数を10回と大台に乗せたこともあり、年寄株の未取得という課題こそあるが、いつ引退してもおかしくないと言われている。照ノ富士が引退すれば、看板である横綱が不在となる。協会はこれだけは避けたいはずだ。
ロンドン公演の成否
なぜなら、2025年は協会と八角理事長にとっては重要なイベントが控える年だからだ。
今年は相撲協会にとって、財団法人設立100周年のメモリアルイヤー。それを記念し、ロンドン公演(10月15日から19日)が決まっている。ロンドン公演は34年ぶり。そして前回の1991年に現役横綱として渡英し、優勝しているのが八角理事長その人なのだ。会場であるロイヤル・アルバート・ホールも当時と同じ。八角理事長にとっては凱旋公演となる。昨年12月には現地で記者会見を行い「今回は日本相撲協会の理事長として参加することに大きな喜びと責任を感じる」とご満悦だった。
その凱旋公演の場に横綱がいるかいないか、また、いるにしても照ノ富士1人なのか、その横に更に“ダブル昇進”の2人が並ぶかどうかは成否に大きく関わる。
ここ数年の大相撲人気の復活はインバウンド需要と密接だ。観戦客の30%は外国人が占めるとの報道もあるほどである。ロンドン公演が活況を呈せば、かつて若貴ブームで人気が沸騰していた時代のように、ヨーロッパ諸国や北米など、他の国々での公演も広がる。そして、それはインバウンド需要の更なる増加に寄与する。その意味でも、ロンドン公演は本場所以上に成功が必要になる。そこに、協会の看板たる横綱が不在という事態だけは絶対に避けたいのだ。
長期政権
2025年で、八角体制は実質5期10年の長期政権となった。その八角親方が次々と横綱を誕生させ、土俵が活性化し、さらなる大相撲人気の拡大に成功すれば、「一強体制」は確固たるものとなり、65歳の定年を迎える2028年まで理事長職に留まることも視野に入ってくる。相撲人気に沸く中、55年ぶりにダブル昇進の横綱を誕生させ、大きな話題をさらおうとする裏には、そんな狙いがあるかもしれない。
とは言え、もし政治的な思惑で下駄を履かせた横綱を誕生させ、その横綱がコケれば、協会が批判されるだけでなく、土俵の充実が失われ、盛り上がってきた相撲人気にも水を差しかねない。
そのためにも、琴櫻、豊青龍が誰にも文句を言われないほどの星を残し、強さを見せつけて昇進することが不可欠なのだが、さて、その結果は――。
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