「べらぼう」で“ダサい鬼平”を演じる「中村隼人」の魅力 舞台での「気絶」演技も絶品だった
ドラマを歌舞伎に
江戸一番の大富豪、両替屋・三国屋徳右衛門の孫・八巻卯之吉(隼人)は、昼は町奉行所の同心、夜はキラキラ着物の若旦那に戻ってお座敷遊びという二重生活。走るのも暗闇も苦手、悪人に刀を向けられると立ったまま気絶してしまうというへなちょこだが、その姿が「スキがありすぎる。わざと?」と敵をビビらせ、なぜか事件を解決。江戸庶民の人気者になるのである。
「大富豪同心」は2019年から3シリーズが放送され、24年年末にはスペシャルドラマに。この正月には歌舞伎座で上演中だ。私も早速、観劇してきた。
舞台版では卯之吉が将軍・徳川家政 の弟・幸千代と瓜二つと判明。幸千代がひとり町歩きで行方不明になり、急遽、卯之吉が影武者に。通常、舞台での早替わりは、男役が女役になったり、姿かたちがガラリと変わったりするのがお約束だが、卯之吉と幸千代に関しては「顔そっくりの早替わり」という珍しいパターンだ。隼人は、幸千代のときは剣豪若様らしくきりりと堂々と歩き、卯之吉のときは眉毛を下げて内またで小走り。このギャップが面白い。
大叔父は萬屋錦之介
上演前のインタビューでは「卯之吉は自然と周りに人が集まってくる人物。人の気持ちや痛みがわかる人物像があってこそ、現代的な感覚で令和の時代劇として楽しんでいただけていると思う。5年かけてドラマで育ててきた役がどう歌舞伎になるかと思うかと楽しみ。一致団結して臨みたい」と語っていた。5年も培ってきた作品だけに、舞台で見せたライブの「気絶」演技も冴えわたっていた。
この舞台の演出は松本幸四郎が務めた。幸四郎は昨年よりドラマと劇場版が公開された「鬼平犯科帳」に主演している。不思議な鬼平つながりといえる。
なお、卯之吉のお約束といえば、小判を大盤振る舞いする場面。ドラマではお座敷で小判を撒いたりしたが、舞台でも高価な「お年玉」を配ってみんなを驚かす。一方、「べらぼう」の予告編では、平蔵が吉原で桃色の紙花を大量に撒いていた。紙花は換金できるもので、一枚数万円分の価値があったという。
萬屋錦之介を大叔父に持ち、大河ドラマや舞台でユニークな風を吹かせる中村隼人は時代劇のホープだ。平蔵の進化、「大富豪同心」の続編に期待したい。