「べらぼう」で“ダサい鬼平”を演じる「中村隼人」の魅力 舞台での「気絶」演技も絶品だった

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 ペリー荻野が出会った時代劇の100人。第29回は今年の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK)で後に“鬼平”と恐れられる若き日の長谷川平蔵を演じる歌舞伎役者の中村隼人(31)だ。

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 1月5日から始まった大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。さまざまな文化が興隆した江戸時代中期、親も金もない身の上ながら知恵と度胸で江戸のメディア王となった蔦屋重三郎(横浜流星)の生涯を描く。

 蔦重は彼が育った吉原の人々をはじめ、喜多川歌麿(染谷将太)、葛飾北斎、謎の絵師・東洲斎写楽、さらには田沼意次(渡辺謙)、平賀源内(安田顕)など当時の有名人と出会う。そのやりとりも楽しみだが、私が注目するのは長谷川平蔵を演じる中村隼人だ。

 長谷川平蔵といえば江戸の凶悪犯罪を取り締まる火付盗賊改方のお頭。池波正太郎の小説「鬼平犯科帳」の主人公であり、ドラマや映画で時代劇ファンに長く愛される「鬼平」だ。呼名の通り悪には鬼のごとく強く、弱い者にはとことん優しい。大人の魅力あふれる人物として描かれるが、今回の大河ではこれまでの平蔵とはかなりイメージが違う。

 第1話。ある夜、平蔵は、遊び人風の男を引き連れて吉原にやってくる。威張ってはいるが遊び慣れていない平蔵は、売れっ子の女郎・花の井(小芝風花)の花魁道中を目撃し、自分の相手をさせろと女郎屋・松葉屋にねじ込む。平蔵は蔦重に「血筋自慢のチャクチャク野郎」と見抜かれた上に花の井との仲を取り持つとうまいことを言われ、引手茶屋・駿河屋の「極上吉のカモ」にされる。

イメージの異なる平蔵

 実際、若いころの平蔵は、幼名の銕三郎から“本所の銕”と呼ばれた不良で放蕩息子だったらしい。隼人の平蔵はカッコいい不良というよりは、吉原のしきたりも知らず、服装も微妙にダサい。何より気になるのはシケ(ほつれ髪)だ。色気演出でわざと出している毛!? それをフーッと口で吹くって。こんな平蔵、見たことない。

  主役の横浜流星と隼人は2023年に舞台「巌流島」で共演。横浜が宮本武蔵、隼人が佐々木小次郎を演じた。ハードな舞台経験を通して、横浜とは今も刺激し合う間柄だという。「べらぼう」での蔦重は、ライバル版元のおやじたちに揉まれながら強かにヒット作を出す男になっていく。ダサい平蔵の変化と蔦重との関係にも注目だ。

 中村隼人は過去にも大河で大事な役を演じている。

 2010年、福山雅治が坂本龍馬を演じた「龍馬伝」では14代将軍・徳川家茂。映像作品としては2作目の出演だった。長州征伐の命を下し、孝明天皇に攘夷を約束するなど、幕末の悩める将軍を苦しそうに演じていた。

 2013年の「八重の桜」では、会津藩9代藩主・松平容保の実弟で桑名藩主・松平定敬を演じた。定敬は新政府軍に激しく攻撃される会津を思い苦しむのだった。

 こうした苦しい役の経験を経て、びっくりするようなキャラクターとして登場したのがNHKのBS時代劇「大富豪同心」シリーズだった。

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