「町田は、僕にとって〈東京〉ではない」 『イッツ・ダ・ボム』が話題の作家・井上先斗が語る、今も〈東京〉に特別な思いを抱く理由

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〈東京〉の中に住むのは何かが違う

 町田では代替できなかった移動時間こそが実は重要なのだろう。あの数十分が、僕の中で〈東京〉とそうでない場所を隔てている。そこまで離れてない。けれど、僕の体のそばではない。

 そして、この距離感が、一番落ち着くのだ。僕は、就職のタイミングで相模原から引っ越している。職場を考えると23区内の方がよかったのだけれど、どうしてか、家探しをする時、神奈川県内あるいは町田市内を前提としていた。〈東京〉の中に住むのは何かが違うと考えてしまう気持ちが存在した。

 そうしたわけで僕は今日も〈東京〉の外で暮らし、仕事や遊びのために〈東京〉へ出かけている。さすがに最近は縮まりつつもあるけれど、依然、僕と〈東京〉に距離はある。

井上先斗(いのうえ・さきと)
1994年愛知県生まれ。神奈川県川崎市在住。成城大学文芸学部文化史学科卒業。2024年『イッツ・ダ・ボム』で第31回松本清張賞を受賞しデビュー。

デイリー新潮編集部

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